シリーズ「現場から、」。静岡県菊川市のラーメン店で特別な醤油を使ったラーメンが人気を集めています。使われているのは4年前に発生した災害を乗り越えて誕生した醤油です。
菊川市の「ラーメンこころ」。看板メニューのひとつ、「プレミアム醤油あらたき」です。
<ラーメンこころ 山本貴志店長>
「常連さんは3回に1回はプレミアムを食べていただいて、やっぱりこの醤油おいしいねって言っていただく。濃口なんですけど、奥深い味わい」
うま味にこだわる店主が出合った理想の醤油は、災害を乗り越えて生まれたものでした。
<伊豆川洋輔記者>
「住宅のあらゆる部分が吹き飛ばされてしまっています。こちらの敷地内にあった大きなトラックは飛ばされ横転してしまっています。風の勢いがものすごかったことが分かります」
2021年5月、茶どころ静岡県牧之原市を襲った竜巻とみられる突風。建物への被害は約150棟にも及びました。
<ハチマル 鈴木義丸代表>
「ちょうどいま立っている所から向こう側が被害があった場所です」
1828年創業の醤油製造会社「ハチマル」では築150年以上の蔵3棟が全壊し、桶や機械などのほとんどが使えない状態になりました。
<ハチマル 鈴木義丸さん>
「ショックだった。なんとか再開したいと思っていた。当時はがれきの山だったので正直何から始めてらいいか分からない状況」
しかし、復旧に向けて一歩ずつ進むなか、大きな発見がありました。
<ハチマル 鈴木義丸さん>
「あれもほら、入ってるパイプの中にそのまんま」
崩れた蔵の配管から50年近く前の「もろみ」が見つかり、酵母菌が生き残っていました。
<ハチマル 鈴木義丸代表>
「信じられないというか、とんでもないものを見つけてしまった。本当に奇跡というか、ありがたい出来事だった」
発見した酵母を使って作り始めた新しい醤油。修理した木桶を使い、一般的な醤油に比べ水分の量を2割減らす「十水仕込」で製造します。水分量が減ると、生産できる醤油の量が減ってしまうだけでなく混ぜる手間も増えますが、素材のうま味や甘みを濃厚に引き出せるといいます。そして2024年に完成し、販売したのが「晴レノ日ノ醤油」です。
<ハチマル 鈴木義丸代表>
「買ってきた刺身とか寿司が、うちの醤油で食べるとレベルが格段に上がる。これを使って毎日をハレの日にしてもらいたい」
<ラーメンこころ 山本貴志店長>
「これが『晴レノ日ノ醤油』のもろみ。ペーストにして乗せています。途中で溶かすことによって味が変化して、味噌っぽい感じに味が変化する。僕も作っていてスープを注ぐときに香りが全く違う。そこを伝えられればと思う」
災害をきっかけに誕生した特別な醤油が、多くの人を笑顔にしています。
ハチマルの鈴木義丸代表は、災害を乗り越えて作り上げた醤油を世界中の人に楽しんでもらおうと、日本の優れた商品を世界に広める「おもてなしセレクション」に応募し、金賞を受賞しました。