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河治良幸

サッカージャーナリスト河治良幸

2−0勝利の柏戦を前に横内監督が発した“トーナメント”というワード。ジュビロ磐田はJ1残留に全集中を注ぎ込む


【サッカージャーナリスト・河治良幸】ジュビロ磐田はアウェーで柏レイソルに2−0と勝利。降格圏である18位は変わらないが、17位の湘南ベルマーレより消化が1試合少ない状況で、勝ち点1差と迫った。8月末にホームのヤマハで予定された横浜F・マリノス戦が、台風の影響で延期となり、代表ウィークを挟んで3週間という長いインターバル明けとなる試合で、1ヶ月ぶりの勝利だ。

横内昭展監督も「(マリノス戦の)延期が決まってからは柏戦に向けて準備してきた。トレーニングから選手同士でしっかり話しながら、どうしたら今回、勝点が取れるかをスタッフと突き詰めてやってくれた。その成果がピッチでたくさん出た」と選手たちを労った。

戦列復帰3試合目で、初の無失点勝利を掴み取ったGK川島永嗣も「本当にチーム全体で最後の最後まで体を張れたし、みんなで意思疎通してやれた結果だと思う」と感慨深そうに語った。マリノス戦の延期が決まって、そこから一つ一つを見つめ直して、改善に取り組んだという。

先制点のアシストを含む2得点に絡んだMF中村駿は「4日間オフを挟んで、個人個人で考えることが多かったと思う。その4日間のオフの後はすごく、ピリッとした練習ができていた」と振り返る。

柏の対策はもちろんだが、やはりサッカーの原点とも言うべき1対1のデュエルや攻守の切り替えといった、ベースの部分で相手を上回り、セカンドボールを奪う、より前にボールを運ぶところで優勢に立つ局面が多かった。

後半の戦い方に変化


磐田は課題だった前半で先に失点することもなく、開始5分にセットプレーの流れから、FW渡邉りょうの移籍初ゴールでリードを奪った。CKのセカンドを拾った高畑からボールを受けた中村がディフェンスを鋭い切り返しで破り、素早く上げたクロスに渡邉がダイビングヘッドで合わせた。

さらに飲水タイムに入る直前の26分に、ダイナミックな展開から中村がタイミングよく中央のスペースに走り込んで、ゴール前のディフェンスを背負う渡邉に当てたリターンを左足で流し込んだ。

前半は理想的な試合展開になったが、後半のゲーム運びというのはこれまであまり見られなかったものだ。自陣から最終ラインでボールを動かして、グラウンダーのパスをライン間に入れるような形をあまり取らず、2トップのジャーメイン良と渡邉にロングボールを当てて、セカンドを拾ったところから、相手のサイドバックが上がって生じたスペースなどを活用して高い位置までボールを運んだ。

その分、試合の指標となるパス成功率やボール保持率が、時間が進むほど低くなっていったが、磐田のプランから見ればネガティブなものではなかった。

中村は「前半と戦い方を変えて、割り切るところは割り切ってというのは相手も嫌だったと思う。場面場面で、相手は何が嫌なのか、何がいいのかというのはピッチ上で、しっかり判断しながら全員が共有してやれれば」と語る。

そうした意志は後半の途中から投入されたDF西久保駿介やMF藤川虎太朗にもしっかりと引き継がれていた。終盤はパワープレー気味に来る柏に対して、センターバックに鈴木海音を加える5バックで迎え撃った。

中村「割り切りも大事」

柏戦で2点目を決めた中村駿


試合前の取材で横内監督は「気持ち的には当初と変わらず、本当に目の前の試合をやるしかない」と前置きしながら「残り10試合になって1試合の重みが、さらに増してくる。そういう意味では、我々にとってはトーナメント。目の前の試合に全てかけていくしかない」と現在のビジョンを説明した。今シーズン、横内監督から“トーナメント”というワードを筆者が聞いたのは初めてだ。

2−0とリードして迎えた後半の戦いぶりはチームのベクトルが、そこに向けられたことを象徴しているようだ。中村はここから残り9試合に向けて「全部、結果が全てになってくると思う。その結果に対して、自分たちがどう行動できるか。(内容的には)やられたけど勝ったから良かったよねという試合がこれから出てくるかもしれないので。そういう割り切りというのは大事」と主張する。

もちろん柏というハイプレスを押し出してくるチームに対して、ロングボールを起点に裏返していく攻撃は有効だし、終盤5バックで跳ね返すというのも戦術的に有効だった。

堅守とロングボールを強みにするアビスパ福岡に対して、ホームのヤマハでまた違った戦術プランを組むかもしれないが、それも勝ち点を取るために何が最適かという問いの回答だろう。

チームの残留に向けて中長期的な理想を追うよりも、まずは相手を見ながらストロングを消し、今自分たちができる強みをフルに生かして得点を奪い、リードを守り切るというリアリズムに全集中していく。その姿勢を示した柏戦の勝利だった。
シズサカ シズサカ

タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。サッカー専門新聞「エル・ゴラッソ」の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。世界中を飛び回り、プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。

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