狙われた介護現場“法人の私物化”とは 全国でも横行…専門家「見抜くための法の見直しが必要」【現場から、】

静岡市の社会福祉法人を舞台に起きた横領と贈収賄事件。介護サービスの利用者のための運営資金が抜き取られる背景には、全国でも後を絶たない“法人の私物化”の実態がありました。

<静岡地方裁判所 國井恒志裁判官>
「社会福祉法人の高い公益性と非営利性を無視した悪質性の高い犯行」

裁判官の方をじっと見つめ、静かに判決を聞いた男。7月9日、社会福祉法違反の収賄の罪で懲役1年6か月執行猶予4年の有罪判決を受けた医師の男(48)です。

犯行の舞台となったのは静岡市清水区の特別養護老人ホーム。運営する社会福祉法人の理事長だった男は、2000万円の賄賂を受け取る代わりに、理事長の立場を特定の人物に勝手に譲り渡しました。

<特別養護老人ホームの施設長>
「25日に(従業員に)『給料が入っていないよ』と言われて、初めて知った。(新たな理事長は)『これからここの理事長をやります』といったあいさつなどもなく、(施設の運営に)入ってきたので、私たちの中では『この人たちは何者?』みたいな」

男に2000万円の賄賂を渡したとされるのは、施設に縁もゆかりもない2人の男でした。

<伊豆川洋輔記者>(2023年11月)
「都内にある自宅マンション駐車場から容疑者を乗せた捜査車両が出てきました」

業務上横領と社会福祉法違反の贈賄の罪で逮捕・起訴されたのは、新たな理事長の男(43)と、無職の男(52)です。2人は共謀して、ポストを譲り受けた社会福祉法人の口座から約7400万円を抜き出し、その金の中から現金2000万円の賄賂を渡した罪などで現在、公判中です。

施設の運営権をまるごと奪う手口。なぜ社会福祉法人が狙われるのでしょうか。専門家は税金と介護保険で賄われる介護報酬を狙った犯行だと指摘します。

<社会福祉法人に詳しい 宗澤忠雄さん>
「特別養護老人ホームは突出して大きな予算を動かしていると。お金を私物化する、お金を抜くというようなことの目のつけやすさにつながってきたのだと思います」

社会福祉法人の"私物化"は全国で問題となっています。神奈川県川崎市の社会福祉法人が運営する特別養護老人ホームです。前理事長の男性が20年以上前から法人の金を私的に流用していたと発表しました。

<社会福祉法人の新理事長>
「(本人が)認めている(私的流用の)金額が8億数千万円。ただ額面としましてはそれどころではない」

社会福祉法人によると、堂々と法人の名義で領収書が切られ、自宅のリフォーム代や女性との交際費、競走馬の購入などに使われていました。被害額は数十億円にものぼるとしていて、法人は刑事告訴する方針を示しています。

当時の経営陣や監視役を担う評議員は十分な役割を果たしていなかったといいます。

<社会福祉法人の新理事長>
「当然、監査という体制の中において、財務状況の確認、それと理事会議事録などの確認というものをする立場の行政当局からすれば、確認ができたのではないかなという風に思う部分もあります」

監査を担当する川崎市は、提出された議事録や予算の中身をすべてを見ることはしないといいます。

<川崎市健康福祉局 森達也さん>
「社会福祉法人の監査というところにつきましては、不正発見が目的ではないというところがありまして、税務署でもなく捜査機関でもないというところではありますので、こちらとしては、制度に則って、ガイドラインに則ってですね、監査の事務を進めているというところです」

専門家は、横行する社会福祉法人の私物化を見抜くため、社会福祉法を見直す必要があると指摘します。

<社会福祉法人に詳しい 宗澤忠雄さん>
「評議員会がちゃんと機能するっていうことと、それから、経営の自由度が増した社会福祉法人の経理、資金の流れの2点についての監査能力を自治体が飛躍的に高める必要があるっていう風に思います」

<東部総局 竹川知佳記者>
これまで経営が厳しい社会福祉法人の立て直しに携わってきた社会福祉法人の新理事長は、改善が見込めない法人に対して「理事会や評議員会を録画させる」「理事長に対する退任勧告の制度を作る」など、さらに強制力を持って監視する必要があるのではないかと話しました。介護施設の利用者、そして利用者のために働く職員のために、法や制度の在り方を社会全体で考える必要があります。

「あしたを“ちょっと”幸せに ヒントはきょうのニュースから」をコンセプトに、静岡県内でその日起きた出来事を詳しく、わかりやすく、そして、丁寧にお伝えするニュース番組です。月〜金18:15OA

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