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すだれは竹からプラスチックに…それでも『浜名湖のり』は変わらない 製造の今昔

浜名湖の冬の風物詩のひとつといえば、ノリの出荷です。浜名湖でのノリの養殖は、江戸時代に伝わったとされ、毎年12月から翌年3月にかけて出荷のピークを迎えます。

SBSのライブラリー室に残る1971年撮影の「浜名湖のり」の映像を見返してみると、もっと昔はすべてが手作業だった板のり作り。映像を見ると50数年前の時点で、すだれに原材料のノリを平たく乗せるところは機械化されています。

でも、すだれに張ったノリを天日干しにする作業は、人の手に頼っている様子がみてとれます。かつて、のり作りは人手が多いほどよく「小学生の時、昼休みにも家に戻って、原料のノリを細かくした」という思い出話をしてくれた70代の男性もいました。

このころには、天日ではなく、乾燥室内でノリを干す方法も普及してきていました。金枠に入れたノリをくるくる回し、温風にあてて乾かしていた時代を経て、いま、「浜名湖のり」はどのように作られているのでしょうか。

浜名湖の南に位置する浜松市中央区舞阪町の漁師・密岡秀太さん(33)を訪ねると、そこには、全長15メートルほどのブルーの機械が。ここに浜名湖で育てた青ノリと愛知県産の黒ノリを水と混ぜて入れると、この機械の中がバーナーで40度近くまで熱せられ、およそ20センチ四方の浜名湖特産「ぶちのり」が、2時間あまりで5,800枚出来上がります。

密岡さんの、2022年に亡くなった父親が20年ほど前に導入した全自動乾のり製造機です。機械は中古でしたが、工場の建屋も含めると、2千数百万円の投資だったといいます。

全自動乾のり製造機 のり作りをする家によって規模はさまざま

昔ながらの「のり」作りで使っていた「すだれ」のようなものは、この中に入っているんでしょうか。

原料のノリを置いた「すだれ」が運ばれていく

竹製からプラスチックに変わってはいますが、多くの「すだれ」がありました。のりの製造能力と同じ数、5,800枚のすだれが機械の中で動いていたのです。

「すだれ」は1160本の竿に5枚ずつ付いている

すだれに、薄く広げてノリを置いたあとは、スポンジで押して、やさしく脱水。これも機械がやってくれます。すだれに付いた、乾燥が済んだのりをはがすのも全自動です。すだれごとベルトコンベヤーに押し付けて、次にすだれを浮かせると「ジャッ」という気持ちのいい音とともに、のりがきれいにはがれます。

昔は「のり剥(む)き」といっていた作業も機械が担う

「原料のノリをすだれに広げて、水を切って、乾かして、すだれからはがす」という、のり作りの原理は、意外にも手作業の昔とオートメーション化されたいまとで、まったく変わりませんでした。

機械内の温度・湿度を示す表示盤 40度に近い熱を使うので、工場内の室温も34度台まで上がっていた

その日の天候に合わせて、機械の温度・湿度をしっかり調節しないと「乾きすぎて縮んだり、逆に、乾いていない生の部分が残るのりになってしまうので気を使う」と密岡さん。全自動ならではの繊細な「さじ加減」もあり、製造途中段階での、のりのチェックに余念がありませんでしたが、「順調ならば(母親と)2人でできる作業」と話します。

のりの光沢や青のりの混ざり具合をチェックする密岡さん 黒のりに青のりが混ざるまだら模様から「ぶちのり」と呼ばれる「まぜのり」とも

高齢化で、浜名湖のりに携わる漁師は年々減っています。機械化・省力化は進みましたが、設備にお金がかかる産業にもなって、皮肉にも、板のり作りを新たに始めようという人がいません。浜名湖特産「ぶちのり」の先細りが心配される状況ですが―

ノリ養殖は「1人でやっているので、網の補修なども含めると1年通しての仕事」だという

「東京の親戚に送ると、その周りの人も毎年味わって喜んでくれる。『ぶちのり』作りはできる限り続けたい。若いから守っていかにゃー」と秀太さんは頼もしく話してくれました。 

「ぶちのり」今季の初競り価格は100枚で3,000円前後だった

あぶると、強い磯の香りがさらに際立つ「ぶちのり」。昔は、火鉢の炭火や石油ストーブ、ガスコンロにかけた焼き網の上であぶっていましたが、いまや、住宅事情も暖房器具も様変わりしました。「うちはオール電化」と話すのは、秀太さんの母親・葉子さん(64)。「低温であらかじめ温めたオーブントースターに、目を離さず10秒入れれば、上手にあぶれます」と教えてくれました。

「あしたを“ちょっと”幸せに ヒントはきょうのニュースから」をコンセプトに、静岡県内でその日起きた出来事を詳しく、わかりやすく、そして、丁寧にお伝えするニュース番組です。月〜金18:15OA

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