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“邪道なそば”といわれても…「お客さんの『おいしそう』に応えたかった」“ソウルフード”戸隠「磯おろし」のヒミツ

日本各地には、「そばといえば、ここ」といわれる名店があるはずです。静岡の場合は、その名も「戸隠」。街角インタビューで「戸隠といえば?」と聞けば、ほぼ全員が「おいしいそば店」と答え、二言目には「食べたくなっちゃう」と口をそろえるほどの市民とってになじみの店です。

 

看板メニューは「磯おろし」。週末には1日600杯も出るといい、このそばを食べに、わざわざ家族連れで遠方から食べにくる県民もいるほど。では、なぜ、静岡なのに「戸隠」なのか。そもそも「磯おろし」って何なのか。意外と知らないヒミツを深掘りしてみました。

 

7月6日、静岡市駿河区にオープンしたのが「戸隠草薙店」。午前11時の開店前から店の周りには、この日を待ちわびたという人たちであふれました。

 

店内は、和の雰囲気漂う開放的なワンフロアに35席。天ぷらなどの揚げ物の料理人の所作を間近で見ることができるようオープンキッチンにするなど、細部にこだわりました。

 

「静岡の顔となるような店に成長していけると思っています」。祖父母が始めた店を引き継いだ3代目・津村直人社長は朝礼の場でスタッフに、こう呼びかけました。

 

無類のそば好きといわれた徳川家康のおひざ元・静岡。江戸時代から続く店が現存するなど、市内には多くのそば店があります。

 

今年で創業67年を迎える「戸隠」は直営4店舗、のれん分けの店が静岡市内に4店舗、静岡県藤枝市、さらには長崎県諫早市にもあるという静岡を代表するそば店です。しかし、その歴史を紐解くと意外な過去がありました。

 

「元々はウチは下駄屋さんでした」と津村さん。静岡の人気店はいわゆる「業態転換」組だったのです。家康とともに、江戸から当時の駿府に移り住んだ多くの職人たち、そのひとつが下駄を作る人たち。その後、静岡を代表する地場産業へと成長しますが、戦後、急速に需要が減ると、多くの業者が廃業の道を選びます。

 

関連部品を作っていた津村さん一家も決断を迫られます。そこで「食堂を始めました」。ただ、そば店ではなく、大衆食堂。1956年、「つむらや食堂」の名前で店を始めます。

 

官公庁や企業などの出前を多く扱い、店も軌道に乗ってきた1968年、転機が訪れます。静岡市の中心街、呉服町にそば専門店を開いたのです。

 

<戸隠 津村直人社長>

「まずは料理を一本に絞るという祖父母の戦略があったと聞きます。静岡はもともとそば店が多く、そば好きな人も多かったのも理由だと聞いています」

 

店の名前は「戸隠」にしました。なぜ、静岡で戸隠なのか、そのワケはこうでした。

 

<戸隠 津村直人社長>

「実は創業当時は、そば粉を仕入れ先として、長野県の戸隠村から仕入れていました。そこの地名をいただいて『戸隠そば』という形でいくことにしたそうです」

 

全国屈指のそば処・長野県・戸隠。ここの知名度にあやかろうと「戸隠」の名前を借りた、というわけです。

 

戸隠の顔「磯おろし」。こしのあるそばが少し甘めのつゆに浸かり、めんの上には、天かすに、のり、きぬさや、大根おろし。「ぼっち盛り」で知られる戸隠そばとはかなり姿や形が違ういわゆる「ぶっかけ」スタイル。生まれたきっかけも偶然でした。

 

<戸隠 津村直人社長>

「元々は従業員がまかないとして、食べていたスタイルが原点になっています。食べているのを見たお客さんが『おいしそうだからちょっと食べさせてよ』と」

 

好評だったことから、客向けにアレンジを加えて、1969年「磯おろし」として販売を始めます。名付け親は初代女将の津村文代さん。のりをたくさん散らしたことで磯の香りが立ったことからこの名前を思いついたといいます。

 

<戸隠 津村直人社長>

「“ぶっかけ”スタイルは当時、邪道な食べ方。『客に出すのはどうか』といった声も聞こえたとのこと。でも、新規参入のそば店だったので、何か仕掛けなきゃというか、お客さんがおいしいと思えるものを、顧客の声を純粋に取り入れたのが原点にあると思います」

 

また、当時では珍しく商品名を商標登録しているのも特徴。「盛り付け方など絶対まねされるから」これまた常連客のアドバイスに、しっかりと耳を傾けたのです。気づけば、“邪道”とされたそばが、「おまちにしゃれたそばを出す店がある」と評判を呼び、静岡市民の心を掴み、押しも押されもせぬ看板メニュー、そして、静岡の“ソウルフードそば”へと成長しました。

 

「磯おろし」のレギュラーメニューは10種類。プリプリの小えびの天ぷらが5つ乗った天磯おろし。通称「天磯」が一番人気だといいます。実は天ぷらにもこだわる戸隠。「天ぷらというと専門店ではやっぱりお高い。おいしい天ぷらをそばに載せて、ひと皿でお腹いっぱいになって、満足してもらおうというのも祖父母の願いでした」(津村社長)

 

時代の変化を読み、業態転換した決断力、顧客の声に耳を傾け、商品化した発想力。さらに将来を見越し、商標登録まで行った先見性。“ベンチャーそば店”が生み出した『磯おろし』は、お客さん思いのわざわざ食べに行きたくなるひと皿です。

「あしたを“ちょっと”幸せに ヒントはきょうのニュースから」をコンセプトに、静岡県内でその日起きた出来事を詳しく、わかりやすく、そして、丁寧にお伝えするニュース番組です。月〜金18:15OA

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