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ドウマン稚ガニ、安定生産なるか 30年来の悲願 沼津に新施設

 栽培漁業を推進する静岡県は本年度、沼津市の県温水利用研究センター沼津分場に新設した種苗生産の新施設で、浜名湖特産のノコギリガザミ(ドウマンガニ)の稚ガニ生産を始めた。細菌の侵入を防ぐシステムと4台の水槽で生育状況を比較できるのが特長。30年来の悲願の安定生産へ、関係者は執念を燃やす。

病気の侵入を防ぐシステムを採用した量産実証施設=8月中旬、沼津市の県温水利用研究センター沼津分場
病気の侵入を防ぐシステムを採用した量産実証施設=8月中旬、沼津市の県温水利用研究センター沼津分場

 新施設「量産実証施設」は20トンの水槽4台を設け、電気を流して殺菌した海水を飼育水として循環させる閉鎖循環システムを採用。4月と6月、各水槽に約50万匹ずつ幼生を入れた。稚ガニになったのは約100匹と直近数年に比べ成果は乏しいが、佐竹顕一分場長(56)は「病気を抑える効果は大きい。これまであった水槽より小さいため、適正な密度をつくりやすい」と新施設を歓迎する。
 県は浜名漁協の要請を受け、1985年からノコギリガザミの稚ガニ生産の技術開発を試みている。数万匹を生産した年もあるが、安定性を欠く。分場によると、最大の要因は栄養過多による発育異常。栄養量を変えて適量を探っているが、同じ条件でも結果に大きな差が出ることもあり、従事する職員を悩ませている。さらに近年は、稚ガニ生産に欠かせない卵の入手が困難に。天然の抱卵ガニを購入できず、抱卵していると思われる雌ガニを購入して育てている。
 希少価値の高さから「幻のカニ」とも呼ばれるドウマンガニ。県などによると、国内の産地は浜名湖や高知県の浦戸湾、沖縄県の石垣島周辺などに限られる。高知県をはじめ自治体や企業が種苗生産の技術開発に取り組んだが、安定生産の顕著な成功例は「把握していない」(静岡県の担当者)。
 「自然界ではできているので、私たちにできないはずがない。諦めずに続けたい」。県から委託を受ける県漁業協同組合連合会の職員として長年携わる佐竹分場長は意気込む。「情報を収集し、いろいろな方法を試して成功する確率を上げたい」。まずは数万匹の安定生産を目標に定める。
 (東部総局・矢嶋宏行)

供給不足の解消期待 浜名漁協
 浜名漁協によると、ノコギリガザミの需要は強く、時期によって供給が追い付かないことがある。同漁協雄踏支所の江間勇人支所長(48)は「貴重な資源の一つ。安定して取れる状況になれば」と期待する。
 浜名湖の漁獲量は変動が大きいが、近年は回復傾向。県水産・海洋技術研究所浜名湖分場の集計によると、2017~18年は年間3000キロ台だったが、19年以降は6000キロ台後半~7000キロ台になった。
 同漁協は、温暖化で漁期が長くなったことや、過去の稚ガニ放流など複数の要因が重なった結果と分析している。

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