
「どうですか?カレーの味は?」 記者の問いかけに、インド人社員は微笑んで答えました。
「日本で食べているけど母の料理と同じです。とってもおいしいです」
「作り立てのインド料理の味がします」
浜松市に本社を置く自動車メーカー・スズキ。その社員食堂でインド出身の従業員から好評なのが、「ベジタリアンカレー」です。そのカレーが2025年6月、レトルトになりました。
<浜松総局 鈴木康太記者>
「最初はしっかりと野菜の甘味を感じるが、後からスパイスの香りと辛さがきて、これは本格的なスパイスカレーです」
記者も唸るカレーのきっかけは、15年ほど前にさかのぼります。
「実家で食べていた味を、ここ日本のスズキで」15年前に始まった社食改革

スズキがベジタリアンカレーを食堂のメニューに加えたのは、15年ほど前のことでした。
インド出身の従業員が増えていくにつれ、「母国の味に近いカレーを食べたい」という声があがってきました。
スズキ人事部厚生課の志田大介課長は、導入の狙いをこう語ります。「実家で食べていた味を、ここ日本のスズキで食べていただけるとなったら、インド出身の社員の皆さんも喜んでいただけるし、何より仕事の成果も良い方向に向くだろうという思いで開発しました」
「日本人がおいしいと感じる味ではなく、インド人がおいしいと感じるカレーに」フレンチシェフの苦闘

「本格的なインドカレーを社外のお客さんにも楽しんでもらいたい」。2024年、スズキは食堂のカレーを提供しているレストラン事業者にレトルトカレーの商品化を相談しました。
レシピ開発を担当したのは、ル・グラン・ミラージュの松下敦祐料理長。フランス料理を得意とする松下さんにとって、インド料理は初めての挑戦でした。
担当したル・グラン・ミラージュの松下敦祐料理長は、「インドの家庭料理なので、日本人がおいしいと感じるカレーではなくて、インド人がおいしいと感じるカレー、そこの味に合わせることが大変でした」と語ります。
スパイスを入れる順番一つにも意味があり、松下さんはインド人の方に試食を依頼し、フィードバックをもらっては作り直す工程を繰り返しました。「日本人の舌に合わせる」のではなく、「インド人が求める味」を追求したのです。

カレーにはタマネギやトマトなどの野菜と20種類以上のスパイスを使います。
「故郷を思い出す」9万5000食のヒットへ

完成したカレーは、試食したインド人社員から「母親の味のようだ」「故郷を思い出す」と絶賛しました。レストラン事業者鳥善の伊達善隆社長は、「みなさんに少しでも安心して働けるような環境をつくりたいというところからスタートしたので、それがかないました。我々もモチベーションが上がりましたし、レトルトカレーのような形になってとてもうれしく思っています」と話します。
レトルトカレーを食べた社員からも、「うちで作るカレーとは違って手が込んでいる」「本格的なベジタリアンカレーをレトルトでっていうのは初めてだったのでびっくりした、おいしい」と反応は上々です。
「スズキ食堂」のベジタリアンカレーは全部で5種類。発売から約9万5000食ほど売れていて、イベントなどでも大人気です。商品のパッケージをコレクションして楽しむファンもいます。
「浜松とインドはスズキの地元です。食文化を通じて、スズキに親しんでもらいたいですし、インドも身近に感じていただいて、どんどん広がるとありがたい」
スズキ広報部沖津慎さんは、このカレーに思いを込めます。

スズキの食堂では現在13種類のカレーが提供されており、いずれは全てレトルトにする予定もあるといいます。パッケージのイラストの評判もよく、どんなイラストが登場するのかファンも心待ちにしています。
「スズキ食堂インドベジタリアンレトルトカレー」は全5種(各918円・税込み)。スズキ歴史館やオンラインショップなどで、国境を越えた「母の味」を楽しむことができます。







































































