「逃げない」ジュビロ磐田・三浦文丈新監督が示した整理と強度。初陣で見えた再建への第一歩とは。

サッカージャーナリスト河治良幸

百年構想リーグの終盤戦、ジュビロ磐田に訪れた急転直下の監督交代は、チームに少なからぬ動揺をもたらした。志垣良前監督がシーズン途中で契約解除となり、その後任として白羽の矢が立ったのが、コーチングスタッフの一員であった三浦文丈監督である。就任時点でチームは3連勝中という流れの中にありながら、クラブの決断は「継続」と「変化」の両立を強く求めるものだった。その難題に対し、三浦監督は「逃げない」という言葉を軸に、現実的かつ段階的なアプローチで応えようとしている。

初陣となった岐阜戦は、その姿勢を端的に示す90分だった。試合は1-0の勝利。スコアだけを見れば最小限だが、その中身は「整理」と「強度」を前面に押し出したものだった。三浦監督は就任会見で「時間がない」と繰り返し語っていたが、その制約の中で優先順位を明確に設定したことがうかがえる。

実際のゲームでは、磐田は[5-4-1]の守備ブロックを採用。岐阜にボールを持たれる時間帯が続いたが、中央のスペースを閉じ、危険なエリアへの侵入を許さない設計が徹底されていた。三浦監督自身も「まずは守備のところをしっかりと粘り強くやって、侵入させない」と語っており、急造体制において最も再現性の高い守備の安定化を最優先事項としたことが明確だ。

興味深いのは、その守備が単なる受動的なブロックにとどまらなかった点である。奪った後の攻撃には明確な意図が与えられていた。「取ったら鋭いカウンター」「サイドでのミスマッチからニアゾーンを取り、クロスへ」という2つのポイントが共有され、実際に先制点はその狙いが結実した形だった。35分、プレス回避から右サイドへ展開し、植村洋斗の攻撃参加からグスタボ・シルバが仕留めたゴールは、まさに設計されたカウンターの典型例だった。

三浦監督は「前半は押し込まれたが、決定機はこちらの方が多かった」と振り返る。この言葉は、ボール保持率では劣りながらも、試合の質的な主導権を一定程度握っていたという認識を示している。ポゼッション偏重ではなく、ゴールに直結する局面をどれだけ創出できるか――その指標を重視する姿勢が見て取れる。

一方で、後半は岐阜がボールを握り、試合はオープンな展開へと移行した。それでも磐田は自陣にブロックを敷き、最後までリードを守り切る。ここにも、三浦監督の現実的な判断が表れている。本来であれば「奪いにいく」守備を志向しながらも、「そこはなかなか難しかった」と認め、まずは勝点3を確実にするマネジメントを選択した。

この柔軟性は、就任コメントからも一貫している。三浦監督は「ビルドアップは構築に時間がかかる」と語り、すべてを短期間で変えようとはしていない。むしろ、既存のベースを尊重しつつ、「ポイントを押さえながらストロングを生かす」という現実路線を採用している。志垣前監督が積み上げてきた強度や切り替えの部分を継承し、その上に攻撃の整理を加えるという構図だ。

攻撃面で特に強調されているのが「ゴール前のシーンを増やす」というテーマである。クロス、グラウンダー、ドリブルといった多様な手段を通じてボックス内への侵入回数を増やすことが目標に掲げられている。ここには、単なる戦術論を超えた意図も含まれているだろう。三浦監督は「熱量」をキーワードに挙げ、観客動員の減少にも言及している。ゴール前の迫力あるプレーは、チームの得点力向上だけでなく、スタジアムの空気を変える要素としても重要視されている。

また、ロングボールの活用に対する考え方も示唆に富む。「苦し紛れのクリア」と「意図的なフィード」は別物であり、後者はポゼッションの一形態であるという認識は、現代的な戦術観と合致する。ペイショットを起点に据えた前進の構図を整備しようとしている点からも、単なる撤退型のチームにとどまるつもりはないことが分かる。

守備に関しても、現状と理想のギャップを冷静に把握している。「前から奪いにいく」ことをクラブのコンセプトとして掲げながらも、現時点では完成度が伴っていない。そのため、トレーニングではあえてリスクを取った形も試しつつ、試合ではコンパクトなブロックを優先する。こうした段階的なアプローチは、短期的な結果と中長期的な強化を両立させるための現実解と言える。

そして何より象徴的なのが、「逃げない」という言葉に込められた覚悟だ。三浦監督は今回の状況を「自分にも責任がある」と受け止め、指揮官就任を即断した。単なる代行ではなく、「土台を作って次に渡す」という意識が強く、たとえ自身の来季続投が不透明であっても、クラブの未来に資する仕事を優先している。

岐阜戦の勝利は、その第一歩に過ぎない。内容面では押し込まれる時間も長く、課題が解消されたわけではない。しかし、限られた準備期間の中で、チームの戦い方を整理し、勝点3をもぎ取った意義は大きい。小学生約2800人が見守る“一斉観戦”という特殊な環境の中で結果を出したことも、チームにとって心理的な後押しとなるだろう。

残り試合は多くない。プレーオフ進出へ向けては高い勝率が求められる厳しい状況だ。その中で三浦体制が目指すのは、「勝利」「基盤づくり」「サポーターとの一体感」という三つの柱である。短期的な成果と長期的な再建。その両立という難題に対し、三浦文丈監督は冷静かつ現実的な戦略で向き合い始めている。
シズサカ シズサカ

タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。サッカー専門新聞「エル・ゴラッソ」の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。世界中を飛び回り、プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。

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