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危険です!富士山の弾丸登山 夏山シーズン、万全準備を

 まもなく夏山シーズン到来。富士山などの登山を計画されている方も多いのではないでしょうか。今年の富士山は異例のスピードで山小屋の予約が殺到し、山小屋に宿泊せず夜通しで山頂を目指す弾丸登山者の増加が懸念されています。注意点などをまとめます。
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登山者増加予想...でも宿泊定員はコロナ下を維持 静岡、山梨両県がチラシで警鐘

 静岡、山梨両県は7月から富士山の夏山シーズンが始まるのを前に、山小屋に宿泊せず夜通し登山して山頂を目指す「弾丸登山」の危険性を伝えるチラシを作成し、全国の旅行会社や山岳用品販売店に送付した。

静岡、山梨両県が作成した弾丸登山の危険性を伝えるチラシ=26日、県庁
静岡、山梨両県が作成した弾丸登山の危険性を伝えるチラシ=26日、県庁
 今年は新型コロナウイルスの行動制限がなくなり、登山者の増加が見込まれる一方、山小屋の多くがコロナ下で減らした宿泊定員を維持していて、弾丸登山の増加が懸念されている。
 チラシはA4判の大きさで、静岡県として日本語表記5千部、英語表記2千部を作成した。弾丸登山には高山病や低体温症、落石事故のリスクが高まると警鐘を鳴らした上で、比較的予約状況に余裕がある平日に山小屋に宿泊することなどを勧めている。
 〈2023.06.28 あなたの静岡新聞〉

高山病 /低体温症/登山渋滞 /落石・滑落 リスク防ぐには?

安全登山のポイント

 ・山小屋に宿泊する(睡眠・休息を十分に取る)
・ゆとりのある登山計画を行う
・防寒着による調整を
・ガイド付きツアーに参加する
・自分の経験やペースに合った登山をする
・ヘルメットを着用する。


(静岡県・山梨県作成チラシより)


 

足が痛くなった/飲み水がなくなった...安易な救助要請増えています

 新型コロナウイルス5類移行後初の夏を迎え登山者の増加が予想される中、命の危険に直面した遭難者を助ける静岡県警山岳遭難救助隊に、不要不急や安易な救助要請が増え始めている。「サイズが大きい靴を履いてきたら、足が痛くなった。迎えに来てほしい」「持参したヘッドライトが点灯しない。助けてほしい」-。明らかな準備不足や認識の甘さからくる救助要請の増加は、救える命が救えなくなる事態につながりかねない。関係者は対応に頭を悩ませている。

山岳救助訓練を行う県警山岳遭難救助隊富士宮小隊の隊員=19日、富士宮市の毛無山
山岳救助訓練を行う県警山岳遭難救助隊富士宮小隊の隊員=19日、富士宮市の毛無山
 県警地域課によると、富士山で昨年起きた遭難事故59件中、最も多かったのは「疲労」の22件。同救助隊の坂上雅信隊長は「過去5年で最も多い。準備不足の登山者が増えている印象が強い」と危機感を示す。
 通報内容は多岐にわたる。昨年9月、伊豆市の達磨山で登山中の50代男性から「食器を洗うのに水を使ってしまい、飲み水がなくなった」との一報。救助隊が現場で水を渡すと、回復した男性は登山を続行しようとしたという。坂上隊長は「救助が目的であり、登頂への手助けをする部隊ではない」と指摘する。
 風の影響で救助ヘリが飛べず、到着まで時間がかかることを伝えると、「それなら自力で下ります」と言われたこともあった。坂上隊長は「救助要請すればすぐに助けが来ると考えている人が多い」と漏らす。悪天候でヘリが飛べないことは高山では珍しくなく、地上での救助も、山域や天候次第で数日かかるという。
 救助隊は毎年、険しい山での救助訓練を続けている。6月中旬、富士宮市の毛無山(標高1964メートル)で実施した訓練では、同隊富士宮小隊が登山道から離れて道に迷い疲労で動けない40代男性を救助する想定で臨み、崖上からロープで降下し、遭難者役を背負って安全な場所まで運んだ。訓練の指揮にあたった武藤諭副隊長は「万全な準備をして全力で救助に臨んでいる。登山者も準備を怠らないで」と強調した。
 山岳救助隊は28人の少数精鋭。1人の遭難者救助で6人ほど出動し、安易な通報が増えれば疲労やけがで隊員が2次遭難したり、滑落など人命に関わる事故の対応が遅れたりする可能性もある。坂上隊長は「遭難時は迷わず通報してほしい」と前置きした上で「遭難しないための準備と、複数日待機できる装備を心がけて」と話す。

「天候や自分のペース しっかり把握を」
 「続々と避難してきます。遭難一歩手前の登山者ばかりです」。昨年8月中旬、台風が過ぎ去った直後に赤石岳避難小屋の管理人(当時)がSNSで発信した投稿が注目を集めた。
 天候が荒れる中、強行して登ってくる登山者に苦言を呈する投稿だった。避難小屋付近は強い雨が降り、風速20メートルを超える悪天候。多くの登山者が寒さにふるえ、疲労困憊(こんぱい)の様子で飛び込んできた。当時の管理人は「寝室として利用する2階や3階にもブルーシートを敷き、多いときは60人ほど登山者を受け入れた」と振り返る。
 今年から同小屋の管理人を務める清水明さん(47)は「天候や自分のペースをしっかり把握し、無茶な登山は控えてほしい」と話す。最近は個人が登山やハイキングの記録を紹介するSNSが流行し、参考にして計画を立てる人が多いという。「登山のペースは人それぞれ。他人のペース通りに自分が登れるとは限らない」と警鐘を鳴らし、「朝早く出発して早めに到着する『早出早着』を心がけて」と呼びかける。
(社会部・白鳥壱暉)
 〈2022.06.28 あなたの静岡新聞〉

 

昨夏から静岡県がツイッター運用開始 登山安全情報を随時発信

 静岡県は今夏、富士山の安全登山に役立つ情報を随時発信する公式ツイッターの運用を開始した。富士山の頂、中腹、麓にいる地元関係者の協力を得て、天候の様子や登山道の混雑具合、周辺道路の交通状況などを写真付きで情報提供している。

富士登山の安全情報を随時発信しているツイッター。今夏から運用が始まった=富士山富士宮口登山道(写真部・小糸恵介)
富士登山の安全情報を随時発信しているツイッター。今夏から運用が始まった=富士山富士宮口登山道(写真部・小糸恵介)
 ツイッターのアカウント名は「静岡県 富士登山安全情報」。富士山で活動する山小屋のスタッフや登山ガイド、交通事業者らが1日当たり計20~30件を投稿している。1日午後2時、富士宮口5合目からは「気温25度 雲の隙間から太陽が見えます」などと投稿があった。
 標高日本一の富士山は気象条件が厳しく、空模様や気温、風速などは目まぐるしく変わる。中腹から山頂にかけての人出や5合目行きシャトルバス、タクシー乗り換え駐車場の空き状況など、現地でないと分からない点も多い。富士登山を計画する人から「随時情報がほしい」との要望があり、県はツイッターの運用を決めた。
 県富士山世界遺産課によると、登山者からは「非常に便利」と好評を得ているという。同課の担当者は「予算を全くかけずに効果的な情報発信ができている。地元の皆さんと協力して、富士山の今を伝えていきたい」と意気込む。
(政治部・鈴木文之)
 〈2022.08.2 あなたの静岡新聞〉
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