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サクラエビ春漁終了 漁獲回復の兆し 資源は復活したのか

 駿河湾産サクラエビの漁獲量が上向きつつあります。2023年春漁は前年比およそ1・5倍の水揚げ量で終了し、エビの体長組成分析からも資源状況の改善がうかがえます。記録的不漁に陥ってから5年。ことしの春漁を振り返りながら、サクラエビの資源状況についてまとめます。

昨年比1・5倍超 資源回復の兆しも楽観視はできず

 駿河湾で4月4日から続いていたサクラエビ春漁が9日、漁期を終了した。漁期中に19回出漁し、由比漁港(静岡市清水区)と大井川港(焼津市)で合わせて前年春漁の1・5倍以上となる計約306トンを水揚げした。1ケース(15キロ)当たりの両市場平均取引値は約4万2千円で、漁獲量の増大に伴って前年春の約5万2千円から値を下げた。

駿河湾産サクラエビ漁獲量
駿河湾産サクラエビ漁獲量
 漁期序盤は初漁で約40トンを漁獲し、その後も20トン以上の水揚げを連発するなど好調で、出漁8回時点で昨年春漁全体の漁獲量を超えた。エビの質も高く地元の加工業者や漁師の間では「今春は豊漁」との認識が広まった。
 漁期中盤以降は卵を持った「頭黒」と呼ばれるエビが例年より早く増えたとして資源保護のため5月18~21日に休漁を挟んだほか、最後の出漁となった6月7日を含む3回の出漁で水揚げがなく帰港するなどし、序盤の期待感ほど漁獲量は伸びなかった。両市場平均取引値も初競りの約3万3千円を底値に漁期終盤にかけて値上がりし、春漁最後の6月6日の競りでは約6万2千円を記録した。
 近年、深刻な不漁が続く中で県桜えび漁業組合は資源保護を目的に操業時間や漁獲対象を制限するなどの自主規制を続けてきた。手放しの「豊漁」とまではいかなかったが、1・5倍という漁獲量の増大は確かな資源回復を感じさせた。実石正則組合長は「初漁から大きなエビが捕れたり頭黒が早く出てきてまた減ったりと初体験の連続だった」と話し「もっともっと資源量を増やし、漁に耐えうるサクラエビの母数を整える必要がある」と述べた。(清水支局・マコーリー碧水ウイリアム)
 〈2023.06.10 あなたの静岡新聞〉

サクラエビは“復活”したのか 体長回復、稚エビ生育順調

 駿河湾産サクラエビは“復活”したのか。春漁初日の4月4日の水揚げ量は計約40トンと昨春(0・9トン)の40倍以上に達し、その後も漁獲量は安定的に推移する。静岡大創造科学技術大学院・サステナビリティセンターの研究グループによれば、水揚げされたサクラエビの体長組成分析からも資源状況の改善は見て取れる。

4月4日夜にあった今年の駿河湾春漁初日に取れたサクラエビの体長などを翌朝に分析する鈴木利幸特任助教=静岡市駿河区の静岡大
4月4日夜にあった今年の駿河湾春漁初日に取れたサクラエビの体長などを翌朝に分析する鈴木利幸特任助教=静岡市駿河区の静岡大

産卵場所 海水温上昇?
 静岡県民の「ソウルフード」が戻ってきた-。今年の駿河湾サクラエビ春漁(漁期は6月9日まで)は初日に最大の水揚げ(5月8日現在)を記録した後は、4月27日夜までの計8回の操業でほぼ毎回十数トンから数十トンの水揚げを安定的に確保。ここまでの総水揚げ量は168トンに上り、漁期途中ですでに昨春(202トン)の8割以上となった。価格は1ケース(15キロ)当たり3万円台(浜値)でおおむね推移。不漁のどん底で十数万円台を付けていた数年前に比べ、庶民にも手が届く価格になっている。
 今春の資源の改善傾向は、漁獲量の動向のみならず、春漁初日に水揚げされたサクラエビの体長組成の分析からも印象付けられるという。
 同大学院のカサレト・ベアトリス特任教授(海洋生物学)を中心とする研究グループの鈴木利幸特任助教は、2022年と23年の春漁初日に水揚げされたサクラエビ200尾の体長を比較。今年は比較的大型のサクラエビが多いことが分かった。昨年春漁初日の22年3月30日は体長36ミリ程度のエビの出現率が14%と最も高かったのに対し、今年春漁初日の23年4月4日はそれより4ミリ大きい40ミリ程度のエビが全体の19・5%と最も多かった。念のため今春2回目の出漁日となった9日に取れたエビ200尾も分析した結果、初漁日同様の結果を確認した。
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 国立中央水産研究所元所長の中村保昭上海海洋大教授=焼津市=は「主産卵場の湾奥の飼料環境の良さが加わり、昨年生まれの卵がふ化し、稚エビが順調に育っていることがうかがわれる」と話す。加えて中村教授が注目するのは、23年春漁初日の体長組成のグラフの形状が「一つのヤマ(単峰型)のように見える」ことだ。22年春漁のグラフの場合、36ミリ(21年生まれ)と42ミリ(20年生まれ)の二つのヤマ(双峰型)があり、産卵期の遅れが示唆され、前年生まれのエビが十分に育っていない状態が読み取れる。こうしたグラフの形状はどちらかというと秋漁の特徴に類似していて、中村教授は「今年の春漁は近年の漁況に加えて、グラフの形からも『通常の春漁』に戻りつつある兆候がある」とみる。
 なぜ今春のエビは大きいのか-。カサレト特任教授らのグループは、サクラエビが産卵する水深50メートル以浅における水温に関係している可能性があるとみる。国立研究開発法人水産研究・教育機構の沼津・内浦沖の観測ブイデータによれば、深刻な不漁に陥った18年春漁前の14~17年の春場は22年春に比べ数度程度水温が低かった。水温と脱皮間隔には相関性がある、との研究があり、そうしたことが今年のサクラエビの体長を左右した可能性もあるとする。
 中村教授はこうしたことに加え、主産卵期の遅れがそれほど大きくなかったことや、成長度合いを示す肥満度などからも、さらに科学的に裏付けていく必要性も指摘する。

専門家らが指摘したポイント
 ①2022年春漁初日に比べ23年は出現率のピークを記録した長さが4ミリ大きくなった 
 ②22年春漁初日のグラフは「双峰型」。産卵期が遅れ、前年生まれのエビが十分に育っていない状態。23年春漁は「単峰型」に改善し、「通常の春漁」のグラフに戻っている

栽培漁業 可能性探る 水槽でふ化 幼生育つ
 「マダイやヒラメのようにサクラエビを栽培漁業で増やせないか」。カサレト・ベアトリス特任教授らの研究グループは、温暖化など地球環境の変動下でも持続可能な伝統漁が成り立つよう、栽培漁業の可能性を念頭に幼生の生育実験を繰り返している。これまでに産卵期のアタマグロと呼ばれる個体を海で採取、2021年夏には水槽内でふ化した幼生から稚エビまで最長63日間生育することに成功した。
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駿河湾産サクラエビの主産卵場の環境などを調べるためフィールドワーク中の静岡大研究グループ(手前左から、鈴木利幸特任助教、豊田圭太学術研究員、カサレト・ベアトリス特任教授、鈴木款特任教授)=2020年10月、静岡市清水区の由比漁港

 栽培漁業とは、卵から稚エビなどになるまでの一番弱い時期を陸上養殖などで育て、無事に外敵から身を守ることができる大きさになってから放流し、自然の海で成長したものを漁獲する漁業。県はマダイ、ヒラメ、トラフグ、アワビ類の4種を放流対象にし、深海魚のキンメダイなどの種苗生産も試験的に行っている。ここに、近い将来再び訪れる可能性もある深刻な不漁に備え、サクラエビを加えられないか-。
 これまでの水槽実験で1匹のアタマグロから平均約800個体、最大1800個体の初期幼生「ノウプリウス」のふ化を確認した。ふ化後4日目には大半が「エラフォカリス」となった。研究グループが最も苦慮したのは、エラフォカリスまで植物プランクトンを食べていたサクラエビの幼生が、次のステージの「アカントゾマ」に移る際、次第に動物食に転じ、植物プランクトンと動物プランクトンの両方を餌にするようになる食性変化への対応だ。アカントゾマになるエラフォカリスは1割程度しかおらず、餌となるプランクトンのサイズや割合などを現在検討中だが、徐々に生存率が改善されつつあるという。
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①卵 ②24時間以内に卵がふ化し初期幼生「ノウプリウス」が生まれる。 ③3~4日で「エラフォカリス」になる。この段階までは植物プランクトンを食べる ④さらに数週間で「アカントゾマ」になる。次第に動物プランクトンも食べるようになる ⑤さらに数週間で成体のサクラエビに。ふ化から成体になるには1~2カ月かかる (静岡大カサレト研究室提供)

 サクラエビの幼生は一般市民が目にすることはあまりなく、半透明でいずれも美しい。カサレト特任教授のグループは将来的に漁業者自身が稚エビを陸上養殖できる簡潔な手法を開発、資源管理の意識を高めたいとする。

蒲原沖海水に多量の海洋プラ 静大・三重野客員教授調査
 近年、海洋環境に及ぼす深刻な悪影響が指摘される「海洋プラスチック」。静岡大の三重野哲客員教授(実験物理学)は、静岡市清水区蒲原の沖合約1500メートルの海域で、サクラエビが産卵する水深50メートルより浅い海中に漂うマイクロプラスチックの分析を進めている。
 これまでに計5回程度、毎回約20リットルの水を採取。微細な穴が開いているフィルターでこした後、特殊な薬液で残留物の中にある生物由来の細胞を溶かし、電子顕微鏡で観察すると0・01~0・2ミリ程度のマイクロプラスチックが1リットルの海水に平均千個程度存在した。
 三重野客員教授は富士川河口などからのマイクロプラスチック流入の現状をさらに調査予定で、一般に海底にたまるとされる比較的重い海洋プラスチックについても分析を進める意向だ。(「サクラエビ異変」取材班)
 〈2023.05.09 あなたの静岡新聞「ニュースを追う」〉

始まりは2018年 春漁で記録的不漁

 駿河湾産サクラエビの今季春漁が記録的な不漁に陥り、漁業者や加工業者などから悲鳴が上がっている。資源保護の観点から、漁最盛期の5月に県の指導機関が漁の制限を求めるなど、異例の事態。地元関係者は対応に頭を悩ませている。

漁最盛期を迎えても水揚げ量が上がらず、競りに参加する関係者は気をもんでいる=5月下旬、静岡市清水区の由比漁港
漁最盛期を迎えても水揚げ量が上がらず、競りに参加する関係者は気をもんでいる=5月下旬、静岡市清水区の由比漁港
 「この時期に異常な少なさだ」。由比漁港から漁に出るベテラン漁師は深くため息をついた。今季は4月4日の解禁直後から不漁が継続し、5月も漁獲が上向かないまま終盤に入った。
 漁業権を持つ由比漁港(静岡市清水区)、大井川港(焼津市)の両漁協合わせた春漁の水揚げ量は、ここ10年間ほど600~900トン台で推移していたが、今季は5月末までで約300トンで昨春終了時の4割程度。漁期は6月10日までで、前年比で大幅な減少は決定的。今季の出漁回数は18回(5月30日現在)と平年並みだが、出漁しても漁獲が少ない状況が続く。海水温の低下や漁場が形成されていないことなどを理由に4月と5月に各1回、休漁措置をとった。

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 同様の理由で休漁することは珍しくないが、5月の休漁は県水産技術研究所(焼津市)からの「春漁をある程度抑えたほうがいい」との助言を踏まえた判断。同研究所の担当者は「ここ数年、産卵する親エビの減少が目立つ。親エビに卵を産ませるために春漁の制限が必要」と強調する。
 一方、水揚げ回復の兆しが見えない中で、由比漁港の競りに参加した同区蒲原の加工業者は「駿河湾産が足りない。やむを得ず6月から台湾産を売らなければならない」と現状を嘆く。地元飲食店も「秋漁まで現在の在庫でしのげるか心配。漁の状況や見通しも分からず、対策を立てられない」と苦境を打ち明ける。
 長期的な資源保護と地元経済維持の両立は難しいかじ取り。船主組織の県桜えび漁業組合の実石正則副組合長は「残りの漁期で水揚げが好転するとは考えにくい。漁獲量を工夫しながら続けるしかない」と話した。(吉田直人)

  駿河湾産サクラエビの漁獲量の推移 1999年からの春漁の漁獲量をみると、2008年までは1000トン以上を維持していたが、09年以降は2012年の932トンが最多。秋漁を合わせても、10年と14年は年間1000トンを割り込んだ。県水産技術研究所の担当者によると、産卵状態などから判断する資源水準は09年以降、低い状態で推移し、現在も横ばい。今季の記録的不漁が今年の秋漁以降も続くかは「今のところ分からない」という。
〈2018.06.04 静岡新聞朝刊〉

大盛況「由比桜えびまつり」5年ぶり復活 かき揚げ求め長蛇の列

 静岡市清水区の由比漁港で11日、「由比桜えびまつり」(実行委主催)が開かれた。不漁や新型コロナウイルスの影響で、5年ぶりの復活となった。国内では駿河湾でだけ漁が行われているサクラエビを味わおうと、降りしきる雨にもかかわらず県内外から多くの来場客が集まった。

人気を集め、長い行列ができたサクラエビのかき揚げの出店=静岡市清水区由比の由比漁港
人気を集め、長い行列ができたサクラエビのかき揚げの出店=静岡市清水区由比の由比漁港
 同日午前8時に祭りがスタートすると、サクラエビのプレゼント企画ブースや、サクラエビを使った郷土料理「沖あがり」を販売する出店の前に長い列ができた。中でも由比港漁協女性部のかき揚げは人気を集めて100人を超える行列ができ、300キロを用意した新鮮なエビを女性部が50人がかりで揚げ続けた。掛川市から来場したという40代の夫婦は「1時間以上待ったが、待ったかいのあるおいしさだ」とかき揚げを頰張り、ほほ笑んだ。
 会場ではサクラエビのほかにも、アジやはんぺんなどの地場産品や軽食を売る出店が並んだ。特設ステージでは太鼓やダンスの演奏が披露された。来場者は食べ歩きを楽しんだり、演奏に耳を傾けたりして久々の祭りを満喫した。(清水支局・マコーリー碧水ウイリアム)
 〈2023.06.11 あなたの静岡新聞〉
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