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ペットの看護師 国家資格創設の背景は

 4月から本格的に始動した国家資格「愛玩動物看護師」をご存知ですか。資格を取得すると採血や投薬など一部の医療行為が可能になり、ペットの看護師として、その役割に期待がかかります。資格創設の背景や課題についてまとめました。

獣医療充実に期待の半面、課題も

 「医療補助を通して、ペットが家族と少しでも長い時間を過ごし、より幸せになれるように手伝いたい」。静岡市葵区の山田どうぶつ病院に勤めて12年目の動物看護師安本奈央さん(31)は、国家資格の取得を目指す目的を語る。「スキルアップになり、モチベーションも高まる」と前向きに捉える。

診療中に犬の体を押さえる動物看護師の安本奈央さん(左)。採血など診療補助が可能となる国家資格の取得を目指す=6月下旬、静岡市葵区の山田どうぶつ病院
診療中に犬の体を押さえる動物看護師の安本奈央さん(左)。採血など診療補助が可能となる国家資格の取得を目指す=6月下旬、静岡市葵区の山田どうぶつ病院
 現状の業務は受付や入院したペットの管理、手術準備、診療中の保定など幅広いが、国家資格で新たに医療行為の一部も可能になる。今やペットを家族同然とする価値観が浸透し、飼い主から受ける質問は食事の与え方やしつけなどさまざま。「より充実したアドバイスができれば」と考える。
 県獣医師会会長を務める同病院の山田有仁院長(68)は、チームによる獣医療の必要性に言及し「救急時の蘇生措置など、看護師の対応範囲が増えることで獣医療が充実する。看護師の立場が公的に認められるのも大きい」と話す。
 専門学校も2年制から3年制への変更やカリキュラム編成などを進めている。浜松市中区の専門学校ルネサンス・ペット・アカデミーは、全国的にも早く、本年度の入学生から国家資格に準じたカリキュラムを導入した。問い合わせも多く、社会の関心の高まりを感じるという。
 一方、今後は今使用している「動物看護師」の名称が使えず、動物病院では国家試験の未受験者や合格しなかったスタッフの肩書をどうするか、頭を悩ませる。資格取得後の教育体制の整備や待遇の向上も課題だ。日本動物看護職協会は「労働環境の整備や改善は雇用者側の獣医師の問題でもある。どのような働きかけが有効か、検討が必要だ」と受け止める。

 <メモ>愛玩動物看護師は、愛玩動物(犬、猫、オウム科全種、カエデチョウ科全種、アトリ科全種)の診療補助をはじめ、愛護や適正な飼養に対する助言、支援などを行う。人と動物の関わり方として注目される学校訪問などの動物介在教育、介護や福祉現場でのセラピー活動のサポートも活動の一つとして期待される。

(社会部・佐野由香利)
〈2022.7.24 あなたの静岡新聞〉
※肩書き等当時のまま

治療高度化に対応期待 静岡県獣医師会長/山田有仁氏【本音インタビュー】

 愛玩動物看護師に期待される役割や静岡県の獣医療に与える影響について聞いた。

山田有仁氏
山田有仁氏

 ―愛玩動物看護師の資格創設の背景は。
 「犬や猫などの小動物を診療する動物病院は1980年代初頭から増加し始めたが、当初は1人の獣医師とトリマー、手伝いの家族数人で診療する形態が中心だった。その後、獣医療が高度化してチーム医療が主流になる中で動物看護職の存在が不可欠になってきた。ばらつきがあった看護職の業務を明確にし、知識、技能を高いレベルで平準化する必要が高まったため、2005年に農林水産省が検討会を設置。国家資格化に関する議論も本格化した」
 ―獣医療の現場はどのように変化するか。
 「愛玩動物看護師は獣医師の指示の下に採血や投薬、マイクロチップ装着、カテーテルによる採尿、治療手順が決められている心肺蘇生処置などの業務を行える。これまでは獣医師しか実施できない業務だったが、看護師が実施できるようになれば、業務の流れが一段とスムーズになる。食事の栄養管理、グルーミング、爪切り、歯磨きなど日常の手入れに関する飼い主への指導、治療中の動物たちへの心のケアなどの役割も期待している」
 ―動物病院以外での活動の可能性は。
 「ペットフード会社、動物愛護団体、ドッグカフェ、ペット保険会社などでも看護師の知識やアドバイスは有用になるのではないか。国内ではペットも飼い主も高齢化が進んでいるので、病院に来ることができない家庭を看護師が訪ねて動物の健康面の指導をする飼育支援のケースも出てくるだろう。需要が生まれれば、さまざまな分野で活躍の場が広がっていくと思う」
 ―資格普及の課題は。
 「愛玩動物看護師が安心して勤められると思えるような、選ばれる病院になっていかなければならない。待遇や仕事内容などで、看護師の希望をどのようにクリアできるかは各病院にとって大きな課題だ。資格について、社会に広く知ってもらうことも必要になる。動物が好きな若い世代で国家試験を目指す人が増えれば、必然的に人材のレベルが上がっていく」

 やまだ・ゆうじ 1978年に獣医師免許を取得し、81年に静岡市内で山田動物病院(現山田どうぶつ病院)を開業した。2020年から現職。同市出身。68歳。

(生活報道部・草茅出)
〈2023.3.26 あなたの静岡新聞〉

取得希望8割 動物病院スタッフ調査

 獣医師を補助してペットへの獣医療行為の一部ができる新設の国家資格「愛玩動物看護師」に関し、動物病院の看護スタッフの約8割が「取ろうと考えている」と回答したことが16日、インターネットによる民間調査で分かった。

国家資格「愛玩動物看護師」の取得について
国家資格「愛玩動物看護師」の取得について
 愛玩動物看護師は、ペットブームで動物病院に求められる内容が多様化していることを受け、より幅広く、質の高い医療を提供しようと昨年、国家資格化された。初回試験は19日で、3月に合格者を発表。免許が交付されれば、獣医師の指示の下、採血や投薬、犬猫の個体を識別するマイクロチップの挿入といった一部の獣医療行為が可能になる。
 調査は、獣医療従事者向けの転職支援などを行う「TYL」(東京)が22年11~12月に実施。動物看護スタッフ116人から有効回答を得た。国家資格について「今後取ろうと考えているか」との質問に「はい」が77・6%、「いいえ」が22・4%だった。
 資格取得希望者に理由を尋ねると、「より専門的な治療でペットを救いたい」「転職時に持っておくと安心」がいずれも38・9%で最多。「年収を上げたいから」(11・1%)などが続いた。
 環境省によると、動物看護スタッフには、これまで必須の資格はなく、取得する場合でも民間資格が一般的で、獣医療行為はできなかった。TYL取締役で獣医師の藤野洋氏は「国家資格化でより専門的な業務に携わることができ、社会的地位や給与水準の向上が見込める。これらが取得希望につながっているのではないか」と語った。
〈2023.2.16 あなたの静岡新聞〉
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