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リニア工事「トンネル湧水全量戻し」 JRが初の具体案

 リニア中央新幹線南アルプストンネル工事に伴う大井川の水問題で、JR東海が静岡県外へ流出するトンネル湧水を大井川に戻す方策案を発表しました。静岡県側が求める湧水対策「トンネル湧水の全量戻し」の方法としてJRが提示したのは初めてです。方策案の内容や各方面の反応を1ページに整理しました。
 〈静岡新聞社編集局未来戦略チーム・寺田将人〉

湧水戻す案と田代ダムの取水抑制案 JRが2つの方策発表

 リニア中央新幹線南アルプストンネル工事に伴う大井川の水問題で、JR東海は26日、県外へ流出するトンネル湧水を大井川に戻す2つの方策案を発表した。山梨県側に流出する湧水について、トンネル貫通後、湧水を順次ポンプアップし、工事中に流出したのと同じ量を1年1カ月から1年9カ月の範囲で大井川に戻す案と、大井川最上流部にある東京電力田代ダムを取水抑制する案を示した。

 JRは同日午後、県庁で開かれる県有識者会議「環境保全連絡会議」の地質構造・水資源専門部会で説明する。
 トンネル県内区間は県境付近を山梨、長野側からそれぞれ掘削する計画。山梨側県境は静岡側から掘り進めるトンネル工事と貫通するまでの期間(約10カ月間想定)、トンネル湧水が県外流出する。
 JRは湧水と同量を戻す案については、県外流出量を計測した上で、山梨側と静岡側から掘り進める先進坑がつながった後、同量をポンプアップして導水路トンネルから大井川に戻すとした。
 もう1案の東電田代ダムの取水抑制する策は、トンネル工事期間と同時期に、県外流出量と同じ量の取水を抑制する。田代ダムは発電のため、山梨県側の富士川水系に大井川の水を流している。JRによると、東電側は関係者の理解を得ることを条件に、具体的な方法を検討することについて了解しているという。
 ただ、水問題を議論した国土交通省の専門家会議では、工事期間中に湧水が県外流出した場合、県や利水者が求める「トンネル湧水の全量戻しにならない」との認識を示していて、県の専門部会で議論になる可能性がある。
 〈2022.04.26 あなたの静岡新聞〉

田代ダム取水抑制案とは? 

 リニア中央新幹線工事に伴う大井川の水問題の対策を議論する県有識者会議の地質構造・水資源専門部会が26日、県庁で開かれ、JR東海は大井川最上流部から富士川に水を流している東京電力田代ダムの取水を抑制する方策案を説明した。県側が求める減水対策「トンネル湧水の全量戻し」の方法としてJRが提示したのは初めて。委員からは少雨時に水量が確保されるのかを十分に検討すべきだとする意見が相次いだ。

JR東海が示したイメージ図
JR東海が示したイメージ図
 田代ダムの取水抑制案は、トンネル掘削時に山梨県に流出する湧水量と同じ水量の取水を抑えて流出量を相殺する案。JRの担当者は会議で「関係者の理解を得ながら東京電力と具体的な話をしていきたい」と説明した。
 ただ、田代ダムはトンネル掘削箇所の下流側に位置する。塩坂邦雄委員(地質専門家)は「渇水期に田代ダム上流の水が減って、ダムに水がたまらなければ前提が崩れてしまう」と指摘し、丸井敦尚委員(産業技術総合研究所招へい研究員)は「(河川の機能を維持するために必要な)維持流量を確保できるのか」と問題提起した。
 難波喬司副知事は終了後、「案としては十分あり得るが、現実性があるのかは別の問題」とし、検討を続ける考えを示した。
 JRは田代ダムの取水抑制案とともに、これまで示していた「トンネル貫通後、10~20年かけて県外流出分の湧水を戻す方法」に関して大幅に期間を短縮する案を提示した。
 県が提供を求めていたルート選定時の地質調査資料は、JRが会議で配布し、「超高圧大量湧水の発生する可能性が高い」などとする施工上の留意点も説明した。今後、対策の検討に使われる。
 同専門部会の開催は1年2カ月ぶり。昨年12月に国土交通省専門家会議が取りまとめた中間報告は、JRに対し全量戻しの具体策を県などと協議するよう求めていた。
 〈2022.04.27 あなたの静岡新聞〉

JRの方策案に一定の評価 静岡県専門部会

 静岡県庁で26日に開かれたリニア中央新幹線南アルプストンネル工事に伴う大井川水問題を議論する県有識者会議の地質構造・水資源専門部会で、JR東海は、県や利水者が求める「トンネル湧水の全量戻し」に対応する二つの方策案を示した。委員と県は、具体案が出てきたことに一定の評価をしつつ、JRの想定には不確実性を伴うとして引き続き検討することになった。

JR東海が示した「トンネル湧水の全量戻し」についての主なやりとり
JR東海が示した「トンネル湧水の全量戻し」についての主なやりとり
 トンネル県内区間は県境付近を山梨と長野側からそれぞれ掘削する計画。山梨側の県境は静岡側から掘り進めるトンネル工事と貫通するまでの期間、トンネル湧水が県外流出する。
 JRが示したのは東京電力田代ダムを取水抑制する案と、山梨側と静岡側の先進坑がつながった後、流出したのと同量をポンプアップして大井川に戻す案。ポンプアップする手法は、国土交通省専門家会議で示していたが、ポンプアップする区間を山梨県内工区の本坑、先進坑、斜坑の計16・6キロ区間と初めて示し、1年1カ月から1年9カ月間の範囲で流出量と同量を戻せると説明した。国交省会議の時は10~20年かかると話していたが、大幅に短縮できるとした。
 ただ、戻す期間を計算する前提となる県外流出量を、水収支解析(流量予測)の結果から、300万立方メートルから500万立方メートルの範囲と予測したことについて「1桁多くなる可能性がある」(塩坂邦雄委員)、「500万立方メートルを確定値のように議論するのは危険」(難波喬司副知事)と意見が相次いだ。JR東海の担当者は「数字の精度は検討を深める必要がある」と述べ、想定を修正する考えを示した。

<メモ>トンネル湧水の全量戻し トンネルを掘削する大井川上流域で、トンネル内に水が湧き出て地下水位が低下すると、地表に湧き出る水が減る恐れがある。県や利水者は減水対策としてトンネル内に湧き出た水を工事期間中のタイミングを含めて大井川に全て戻し、中下流域に流すよう求めてきた。JR東海は工事の安全性を考えると、山梨、長野両県から静岡県内を掘る期間中はトンネル湧水が流域外に流出し、大井川に戻せないと説明している。

■ダム取水抑制案「あり得る」 難波副知事、評価
 静岡県有識者会議専門部会に出席した難波喬司副知事は会議後の取材で、JR東海が県外へ流出するトンネル湧水を大井川に戻す方策の一つとして示した東京電力田代ダムを取水抑制する案について「案としては十分あり得る」と評価した。
 田代ダムは発電のため、大井川の水を山梨県側の富士川水系に流している。難波副知事は取水抑制した場合、電力供給に影響が出る可能性に触れ、「(実現には)社会との合意形成が必要になる。これからしっかりと議論を深めないといけない」と述べた。
 トンネル湧水をポンプアップして大井川に戻す案については「以前と変わっていない。リスクを考えて議論しないといけない」と指摘した。

■短期間で返せる可能性 JR東海社長一問一答
  26日に行われた金子慎JR東海社長の定例記者会見での主なやりとりは次の通り。
 ―静岡県側が「トンネル工事期間を含む全量戻し」を求めてきた中、先進坑貫通後に同量を戻す案を改めて示した。地元の要求に対応した認識か。
 「以前に先進坑貫通後に戻す方法を提示した際には『何十年もかかる』と報道されたが、そうではなく山梨県側のトンネルの相当部分を使えばかなり短期間で返せる可能性があるため、十分検討に値するのではと提示した。田代ダムの取水抑制も新たな案。静岡県側から掘削する先進坑から高速長尺先進ボーリングにより県外流出量を減らす方法も併せてやれば、地元の心配や不安を解消できるのではと考えている」
 ―これまで「公表に適さない」と説明していた超高圧大量湧水の可能性を示す地質調査の資料を、県有識者会議に提出した理由は。
 「静岡県から静岡新聞の記事に関する事実関係を確認したいとの要請があったため。当該資料は専門性が高く、専門知識を持つ関係者により分析されるべきということは県にも伝えてきた。しかし現実問題として報道されて不安があるかもしれないとのことで、説明を求められたと理解している」
 ―県有識者会議では難波喬司副知事からルート選定に関し「大井川流域の地質などについて検討が不十分だった」と指摘があった。ルート選定の適切性について認識は。
 「前回の会見でも答えた通り。しっかり環境影響評価(アセスメント)をして適切に決定した」
 〈2022.04.27 あなたの静岡新聞〉

川勝知事、JRの案を批判 田代ダム取水抑制は「乱暴」

 リニア中央新幹線工事に伴う大井川水問題を巡り、JR東海が26日の県有識者会議でトンネル湧水の県外流出量を大井川に戻す二つの方策案を示したことを受け、川勝平太知事は28日、記者団の取材に応じた。JRが新たに示した東京電力田代ダムの取水抑制案について、国や県、流域市町、発電事業者が交わした水利権の合意事項を説明し、「多くの利害関係者による紳士協定によそ者が勝手に入ってきて、『水をよこせ』と乱暴なことをしている」と批判した。

川勝平太知事
川勝平太知事
 また、トンネル貫通後に県外流出量の同量を戻す案も、国土交通省の専門家会議でJRが示した案と同じとして「既に流域が退けた案」との認識を示し、「全量戻しは破綻した」と述べた。
 田代ダムの水利権について川勝知事は、県や流域市町、東電などが「大井川水利流量調整協議会」を通じ河川流量と発電施設の維持を両立する水の量を取り決めてきたことを強調した。県有識者会議でJR側は取水抑制案について「東電側の理解は得ている」と説明したが、川勝知事は「関係者が血のにじむ努力をして出した(水利権の)約束が突然足蹴(あしげ)にされた感じ」と批判した。
 JRが示した南アルプスの地質調査資料を基に、リニアのルート設定の過程についても疑問を呈した。
 〈2022.04.29 あなたの静岡新聞〉
地域再生大賞