コロナで通勤、出張減 ビジネス客の回復困難か【大井川とリニア 第7章 “国策”の採算性㊤】

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、企業のテレワークやリモート会議が急速に普及した。通勤や出張の頻度が減少したことで、鉄道業界は苦境に立たされている。リニア中央新幹線建設を進めるJR東海は、4月に発表した2021年3月期連結決算で民営化後初の通期赤字に転じた。同社は、高い収益力を誇る東海道新幹線との「一元経営」を掲げてリニア建設を推し進めるが、コロナ後も東京-大阪間のビジネス需要回復は難しいとの見方がある。

自宅からオンラインで同僚との打ち合わせに参加する木村憲来さん=10月上旬、富士市
自宅からオンラインで同僚との打ち合わせに参加する木村憲来さん=10月上旬、富士市
実験線を走行するリニア中央新幹線=10月上旬、山梨県都留市
実験線を走行するリニア中央新幹線=10月上旬、山梨県都留市
自宅からオンラインで同僚との打ち合わせに参加する木村憲来さん=10月上旬、富士市
実験線を走行するリニア中央新幹線=10月上旬、山梨県都留市

 都内のIT関連会社に勤務する会社員木村憲来さん(37)は10月上旬、富士市内の自宅からオンラインで同僚との打ち合わせに参加した。木村さんの会社では昨春からテレワークが推奨され、コロナ後も原則、テレワークになる。結婚を機に7月、都内から富士市に移住した。通勤だけでなく、出張の頻度も大きく減った。「打ち合わせのための出張はなくなり、今後も出張は必要最低限になる」
 10年5月、JRはリニア整備計画を審議する国土交通省交通政策審議会小委員会で、リニア開業後の収入の見通しを示した。開業前の収入は06年度から10年度予想の5年間の平均で一定に推移し、東京―名古屋間の開業後には5%、大阪までの開業時には15%増加すると見込んだ。
 当時示した収入見通しはそのままに、金子慎社長は昨春以降の定例会見で「テレワークの影響はコロナ後も残るだろう」と繰り返し述べている。今年4月には、コロナで経営が悪化したものの業務改革などにより、「新幹線と在来線の収入は段階的に回復し、28年度にはコロナ前の18年度の水準に戻る」との想定を示した。品川-名古屋間の工事費を1・5兆円増額しても「リニア工事への特別な影響はない」と強調した。
 鉄道需要の回復について、交通政策が専門の桜美林大の戸崎肇教授は「観光面での需要は、これまで抑圧されていた欲求が爆発し、すぐに盛り上がる」とみる。一方のビジネス需要については時間がかかりつつも回復を見通すが「対面の必要性を経営者に啓発するなど、ビジネス需要を獲得していく必要がある」と指摘する。
 ただ、ビジネスを含めた中長距離輸送は回復が難しいとの見方もある。三菱総合研究所は昨年12月、企業に対するアンケートを実施し、JR各社の収益に影響を及ぼしている出張需要は、感染収束後もコロナ前の水準に戻らないとの結果をまとめた。同研究所の山口涼研究員は「社内の定例会議などオンラインに代替された部分は、コロナ後も残る」との見解を示した。
      ◇
 JR東海の民間事業でありながら、“国策”と位置付けられるリニア中央新幹線建設。コロナ禍が鉄道需要に変化をもたらし、事業費の増額も見込まれる中、事業の採算性は大井川の流量減少問題を抱える静岡県にも無関係ではない。

 <メモ>JR東海が示す収入想定の根拠 コロナ前の2010年に公表した収入想定で、リニアの大阪までの開業に伴う増収額は2720億円と示した。うち約半分が航空機の需要から移る分とした。JRは08年度の東京-大阪間の新幹線シェアが82%なのに対し、開業後の新幹線シェアは100%になると推定している。専門家からは「航空機同士の乗り継ぎ需要があるので、新幹線シェアが100%になるのは考えにくい」との指摘がある。このほか、JRは高速化に伴いリニア料金は東海道新幹線運賃よりも700~1000円高い設定にする計画を示し、増収の根拠としている。
 (「大井川とリニア」取材班)

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