日軽金波木井発電所 取水量報告に疑義 00~06年「上限」連日 識者「改ざん可能性」【サクラエビ異変 母なる富士川】

 国土交通省が河川維持流量を設定するため水利権を縮減した上で更新を認める方向の日本軽金属波木井発電所(山梨県身延町)を巡り、同社が国に提出した過去の取水量報告書に不自然な記載があることが、23日までの静岡新聞社の調査で明らかになった。水利権問題に詳しい専門家は取水実績の信用性に疑問を投げ掛ける。

日軽金波木井発電所の取水量記録の仕組み(簡略図)
日軽金波木井発電所の取水量記録の仕組み(簡略図)
日軽金波木井発電所とJR東日本信濃川発電所の水利権を巡る主な経緯
日軽金波木井発電所とJR東日本信濃川発電所の水利権を巡る主な経緯
日軽金波木井発電所の取水量記録の仕組み(簡略図)
日軽金波木井発電所とJR東日本信濃川発電所の水利権を巡る主な経緯

 国への情報公開請求で得た複数の資料を専門家と分析したところ、2000年4月~06年10月のうち豊水期を中心とした51カ月間の取水量に不自然な記載が確認された。日軽金が国に毎月報告している1日ごとの「平均取水量」の欄に、許可量上限いっぱいの「毎秒30・00立方メートル」が連日、並んで記載された箇所があった。
 例えば03年7月は31日間のうち、7日間は毎秒29・77~29・94立方メートルだったが、残る24日間は全て同30・00立方メートルと記載され、許可量上限いっぱいの取水量だった。
 同発電所には早川沿いの榑坪(くれつぼ)取水せきと、東京電力早川第1発電所放水路からの水が流入し、合計流入量は瞬間ごと変化する。これに対し、発電用取水量は、許可量の毎秒30・00立方メートルを超えないよう、発電所タービン導水路に入る前の自記水位計と連動した「自動調整ゲート」(幅4・3メートル、高さ4・2メートル)でコントロールされることになっているという。
 元都庁職員で「水源開発問題全国連絡会」共同代表の遠藤保男氏は「『平均取水量を連日、毎秒当たりの上限いっぱいに制御した』との取水量報告書は数学的にありえず、日軽金がそれを『可能』とするなら、それを証明するデータなどの開示の求めに応じないのは甚だ疑問だ」と訴える。制御には瞬間ごとに変化する流入水量を、ゲート1門で24時間、常時微調整する必要がある。だが、ある専門業者は「ゲートの昇降速度はせいぜい1分間に数十センチ程度」と証言する。
 遠藤氏は「毎秒30・00立方メートルの許可量を超えた取水の疑いが否定できない。取水実績が改ざんされていた可能性もある」と指摘する。

 ■発電事業者 「頭切り」過去次々発覚
 日本軽金属波木井発電所の報告書に頻出した、許可上限いっぱいの取水を意味する「毎秒30・00立方メートル」が最後に記載された2006年10月。中国電力土用ダム(岡山県)では、上限設定プログラムと呼ばれる機器を使った「頭切り」と呼ばれる取水記録の改ざんが明らかになっている。
 土用ダムの不正を契機に全国の大手電力会社でも同様の不正が発覚した。国土交通省は翌07年3月には、大手電力以外の発電事業者に対しても水力発電所の取水量記録の改ざんがないか自主点検を指示。次々に同様の不正が明らかになった。
 国の指示に対し、意図的に不正を報告せず、水利権が取り消されたケースもある。
 JR東日本信濃川発電所では、08年夏に地元自治体が国に行った情報公開請求で、取水量報告書に許可量いっぱいの取水実績が連日記載されていたことが判明。これをきっかけに不正取水が明らかになり、後に国交省は信濃川発電所の水利権を取り消した。
 同様に許可量いっぱいの取水実績が連日記載されていた日軽金波木井発電所について、同省関東地方整備局は23日までの取材に「当時、日軽金からは観測・記録の適正性を阻害するような措置はなかったとの報告を受けた」とコメントした。
 (「サクラエビ異変」取材班)

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