非常事態、国の指示権拡充 「地方分権が後退」との批判も

 政府は1日、地方自治法の改正案を閣議決定した。災害や未知の感染症など非常事態であれば、個別の法律に規定がなくても、国民の生命保護に必要な対策の実施を国が自治体に指示できるようにする。自治体は従う義務を負う。双方の意見の相違などで対策が定まらず、行政が混乱するのを避ける狙い。新型コロナウイルス禍を教訓に中央集権体制を強化する内容で「地方分権が後退する」との批判も出ている。

地方自治法改正案のポイント
地方自治法改正案のポイント

 国の指示権は現状、必要最小限に抑えられており、災害対策基本法や感染症法など個別法に規定があれば発動が可能。違法な事務処理をした自治体に対しても地方自治法に基づき是正を指示できる。直近では、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設を巡り、工事の設計変更を承認するよう沖縄県に指示した例がある。
 改正案では現状のルールに加え、災害や感染症危機などが発生し、国民の生命保護のために指示が特に必要と判断した場合は発動できるようにする。国と地方の関係を「対等・協力」と定めた地方分権の原則は維持し、非常事態に限った特例と位置付けた。
 指示権発動の前には、自治体からの意見聴取に努めなければならない。安易に指示が出るのを懸念する全国知事会などに配慮した。最終的には全閣僚の同意が必要な閣議決定を経る。
 新型コロナ禍では、初の緊急事態宣言発令を前にした2020年春、国と一部の都道府県との間で、休業要請の内容や範囲を巡って意見が対立した。当時の個別法では、宣言発令前に国の指示権は発動できず、調整が難航した。
 これに対して日弁連は1月の意見書で「(現場のある自治体に比べ)限定的な情報しか持たない国の判断に従うよう義務付けるのは誤っている」と指摘し「対等関係を定めた地方分権改革の貴重な成果をないがしろにする」と批判した。

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