復興の決意照らす灯 地震で全壊、83歳書店主

 暗闇に包まれた商店街で、一つの看板だけが明るく照らし出されていた。石川県珠洲市の「いろは書店」代表の八木久さん(83)は、創業75年の店を切り盛りする中で被災した。「地域の文化を支える」店舗は全壊。灯を絶やしたくないと、能登半島地震発生翌日から看板を照らし続ける。込めたのは復興への決意だ。落ち込む間もなく前を向き、3月中の仮店舗での再開に奔走する。

能登半島地震で全壊した「いろは書店」の前に立つ代表の八木久さん=17日、石川県珠洲市
能登半島地震で全壊した「いろは書店」の前に立つ代表の八木久さん=17日、石川県珠洲市

 市役所近くにあり、地元では「いろはさん」の愛称で親しまれる。漫画や文庫本といった一般書籍に加え、高校生への教科書販売も担う地域のインフラ的存在だった。
 八木さんは元々、書店を継ぎたかったわけではない。就職も決まっていた。大学卒業直前の1962年に母を亡くし、父から「手伝って」と頼まれた。一念発起し、東京で書店主の集会に参加して腕を磨いていった。
 「売れる本を売るのも大事だけど、売れなくても良書を並べることが本屋の使命だ」。店内には経営書や学術書など気に入った本を並べてきた。インターネット販売が定着した今、地域の小規模書店はどこも経営が厳しい。それでも「並べた本を見てもらうだけでもいい。そこに知らない本との出合いがある」と、存在意義を信じる。
 1月1日の地震時は店舗内にいた。間一髪で脱出したものの、建物は併設するカフェもろとも崩れ落ちていた。八木さんは避難所生活が続き、無事だった家族も親戚宅などに身を寄せる。「宝物」と呼ぶ約1万冊の本はがれきの下に埋もれたままだ。「できるだけ助けたい。汚れて売り物にならなくても、配って読んでもらうことはできる」
 過去の地震に耐えてきた店の倒壊には驚いた。とはいえ立ち止まっている暇はない。「3月には高校の新入生に教科書を売らないといけない」。知人に頼んで店から30メートルほど離れた建物を借り、息子の淳成さん(50)と仮店舗開業に向けた準備を進める。ネットで寄付も募っている。
 地震翌日の1月2日、停電で真っ暗な街をせめて明るくしようと、太陽光発電設備を修理して看板を照らした。「心豊かな人が住む街をつくる。被災者には明るく元気になれるような本を読んでほしい」。店を再開したら、また自慢の選書を並べるつもりだ。

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