AIとドローンで農地調査、尾道 衛星写真から利用状況分析

 広島県尾道市の農業委員会が人工知能(AI)とドローンを活用し、農地の利用状況調査の効率化に取り組んでいる。農業委員会は法律に基づき毎年の調査を義務付けられているが、炎天下に急斜面で作業するなど負担は大きい。AIに衛星写真を分析させて荒れた農地を割り出し、人が赴くのが困難な場所はドローンで確認。「調査だけで終わらせたくない」と、売買や賃貸を仲介する独自の農地バンク事業に乗り出している。

上空から農地を調査するために飛び立ったドローン=11月、広島県尾道市
上空から農地を調査するために飛び立ったドローン=11月、広島県尾道市

 「荒れとるね。ここはもう作っとらん」。2023年11月、山の急斜面にかんきつ類の果樹園が点在する尾道市。上空を飛ぶドローンから送られたモニター映像を見た農業委員の吉原正紀さん(72)が、農業委員会事務局の土本充主任(49)に話しかけた。土本さんのタブレットには、AIが衛星写真から推定した農地の荒れ具合が区画ごとに表示されている。土本さんはドローンで荒廃が裏付けられた区画に「再生困難」と入力した。
 AIが衛星写真を分析する、タブレットのアプリは農業ベンチャー「サグリ」(兵庫県丹波市)が開発した。尾道市農業委員会は20年度から順次、ドローンやアプリの実証実験を始め、22年度から二つを組み合わせた調査手法を確立した。
 農業委員会は農地のある各市区町村に設置され、農地利用の最適化を担っている。農地法に基づいて利用状況を毎年調査。都道府県に報告している。高齢化や少子化で増えた遊休農地を把握し、農地の荒廃を防ぐのが狙いだが、屋外作業を強いられる農業委員会の負担は大きい。
 サグリによると、岐阜県下呂市農業委員会を皮切りに、21年以降、数十カ所でアプリが導入された。22年に国が運用を改め、明確に判別できる場合は衛星写真を基に調査可能になったことも普及の追い風だという。
 尾道市は高齢化や担い手不足に伴って農地の遊休化が進んでいる。農業委員会は23年6月に農地バンク事業を始めた。地域に密着し、農地の仲介を活発にしようともくろむ。20カ所以上の登録があり、ゲストハウスの経営者が購入したケースもあった。サグリが開発を進めるマッチング用のアプリにも協力している。
 農業委員会の市川昌志事務局長(57)は「週末だけでも農業に関わってほしいので仲介事業は大切だ。その参考にするためにも農地の把握は重要となる」と話している。

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