戸籍の性別変更、手術要件は違憲 最高裁大法廷、生殖能力喪失巡り

 性同一性障害の人が戸籍上の性別を変更する場合、生殖能力をなくす手術を事実上求める性同一性障害特例法の規定(生殖能力要件)が憲法に反するかどうかが争われた家事審判で、最高裁大法廷(裁判長・戸倉三郎長官)は25日、規定を違憲、無効とする決定を出した。最高裁による法令の違憲判断は12例目となり、特例法では初めて。

最高裁判所
最高裁判所

 生殖能力要件について、医療の進歩により、現在では手術の必要がない人にも性別変更に当たって手術をするか、性別変更断念かの過酷な二者択一を迫っていると指摘。憲法13条が保障する「意思に反して身体への侵襲を受けない自由」への制約は重大だと判断した。
 裁判官15人全員一致の意見。生殖能力要件に関し最高裁が2019年に「現時点で合憲」とした結論を、社会情勢の変化などを踏まえ変更した。国は要件の見直しを迫られ、同様の当事者には卵巣や精巣の除去といった手術を経ない性別変更に道が開かれる。
 もう一つの「変更後の性器部分に似た外観を持つ」(外観要件)との部分は差し戻し、高裁段階での再審理を求めた。この部分には裁判官3人が差し戻さずに違憲判断を出すべきだとの反対意見を付けた。特例法上、性別変更には全ての要件を満たす必要があり、今回の申立人の性別は現段階では変更されない。
 審判の申立人は西日本在住で戸籍上は男性、性自認が女性の50歳未満の社会人。04年施行の特例法は生殖能力要件を「生殖腺がないこと、または生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」と定めており、女性ホルモン投与による生殖機能減退などを理由に手術なしでの性別変更を求めた。
 今回の決定はまず、特例法制定時に「社会の混乱や急激な変化を避ける」などの目的から設けられた生殖能力要件が、現段階でも合理的と言えるかどうか検討。手術を受けない当事者の親子関係に問題が生じることは極めてまれなケースで「混乱が社会に生じたとはうかがわれない」とした。
 また特例法施行から19年で1万人超が性別変更し、性同一性障害の社会的理解も広まっているとして「急激な変化とは言えず、制約の必要性は低減している」と述べた。医学的観点で生殖能力要件を課す合理性が既に失われている点も挙げた。
 19年の最高裁第2小法廷決定は「性別変更前の生殖機能で子が生まれると社会に混乱を生じさせかねない」として合憲と判断。ただ「憲法適合性は不断の検討を要する」と言及していた。

 家事審判 養子縁組や後見人の選任、離婚や遺産相続など家庭に関する問題の裁判手続き。氏名や性別の変更も対象となっている。当事者が提出した書類や家裁の調査官が実態を調べた資料などに基づき、裁判官が結論を出す。プライバシーに配慮し手続きは非公開。決定に納得がいかない場合は事案によって高裁、最高裁に不服申し立てが可能で、再審理される。

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