文楽の芸の継承に懸念 国立劇場建て替え入札不調 29年予定の再開場延期も【スクランブル】

 1966年開場の国立劇場(東京都千代田区)が老朽化による建て替えのため10月末で閉場する。大阪を中心に発展してきた人形浄瑠璃文楽を定期公演し、東の拠点としてもファンに愛されてきたが、2029年に予定している再開場まで、関係者は各地のホールなどに出向き文楽公演を続けることに。だが再整備事業の入札不調で再開場の時期の延期が避けられない状況で、芸の継承への懸念が広がっている。

10月末に閉場する国立劇場=東京都千代田区
10月末に閉場する国立劇場=東京都千代田区
閉場する国立劇場で演奏する竹沢団七さん(国立劇場提供)
閉場する国立劇場で演奏する竹沢団七さん(国立劇場提供)
「菅原伝授手習鑑」の一場面(国立劇場提供)
「菅原伝授手習鑑」の一場面(国立劇場提供)
インタビューに答える文楽三味線方の竹沢団七さん
インタビューに答える文楽三味線方の竹沢団七さん
インタビューに答える文楽三味線方の竹沢団七さん
インタビューに答える文楽三味線方の竹沢団七さん
10月末に閉場する国立劇場=東京都千代田区
閉場する国立劇場で演奏する竹沢団七さん(国立劇場提供)
「菅原伝授手習鑑」の一場面(国立劇場提供)
インタビューに答える文楽三味線方の竹沢団七さん
インタビューに答える文楽三味線方の竹沢団七さん

 ▽満員
 「満員のお客さんが見えて感激した」。1966年11月に行われた文楽第1回公演を、文楽三味線方の重鎮、竹沢団七さん(87)が振り返る。当時、大阪にあった劇場では、演奏しながら観客を数えることができるほど入りが少ない日もあったといい「立派な、生涯仕事を続けられる、いい劇場だ」と思ったと話す。
 国立劇場は歌舞伎や文楽などの公演に加え、伝統芸能の殿堂として担い手の育成もしている。一方で電気設備の劣化や配管の水漏れといったトラブルが相次ぎ、政府は2020年、民間資金活用による社会資本整備(PFI)の手法で、上階にホテルなども併設する整備計画を発表した。
 しかし、劇場を運営する日本芸術文化振興会(芸文振)によると、昨年10月の1回目の入札では手を挙げる業者がなかった。事業内容を見直して再公告したが、今年6月の2回目の入札では応じた業者と条件が折り合わなかった。背景には、近年の建設資材や人件費の高騰があるとみられる。
 ▽環境
 芸文振は「コストなどを見直して早期に再々入札したい」としているが、その公告から契約までには少なくとも1年は必要で、29年内の開場は不可能な状態に。インバウンド(訪日客)が好調な中、日本文化をアピールする東京での拠点を長期間失うのは、継承や普及に苦心する伝統芸能には痛手だ。
 文楽を取り巻く環境はただでさえ厳しい。担い手を育成する養成所への応募者は減少傾向で、23年度初めの文楽応募者はゼロ。募集期間を延長するという異例の対応を取った。関係者は「文楽の東の拠点がなくなり、芸に触れる人もさらに減れば、将来『文楽、何それ』という状況になりかねない」と危機感を抱く。
 だが団七さんは前を向く。大阪・国立文楽劇場で毎夏開かれている子ども向けの公演実施を例に挙げ、学校訪問など幼少時から触れる環境づくりの必要性を訴える。「これまで自分たちが行かなかった場所で文楽をやることで、新しい劇場で見るのが楽しみというお客が増えたらうれしい」

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