【フォーカスメガビル】東京都心で巨大物件続々完成 一極集中進行か 供給過剰「2023年問題」の行方は

 東京都心部で巨大オフィスビルが続々と完成している。東京23区について大手デベロッパー森ビルが行った調査では、2023年の供給量は126万平方メートルと2022年の2・6倍。大規模化が顕著で、延べ床面積10万平方メートル超の物件も少なくない。都心部の求心力が高まり一極集中が進む一方、地方や郊外では企業や人の流出に拍車がかかる可能性がある。(共同通信編集委員・宮野健男)

「麻布台ヒルズ森JPタワー」の52階フロアからの眺め=8月8日、東京都港区
「麻布台ヒルズ森JPタワー」の52階フロアからの眺め=8月8日、東京都港区
急ピッチで整備が進む虎ノ門ヒルズステーションタワー周辺=2023年7月、東京都港区
急ピッチで整備が進む虎ノ門ヒルズステーションタワー周辺=2023年7月、東京都港区
独特な壁面が印象的な虎ノ門ヒルズステーションタワー=東京都港区、2023年7月
独特な壁面が印象的な虎ノ門ヒルズステーションタワー=東京都港区、2023年7月
麻布台ヒルズのビル群=2023年7月、東京都港区
麻布台ヒルズのビル群=2023年7月、東京都港区
インタビューに答える明海大不動産学部の金東煥准教授=2023年7月、千葉県浦安市
インタビューに答える明海大不動産学部の金東煥准教授=2023年7月、千葉県浦安市
「麻布台ヒルズ森JPタワー」の52階フロアからの眺め=8月8日、東京都港区
急ピッチで整備が進む虎ノ門ヒルズステーションタワー周辺=2023年7月、東京都港区
独特な壁面が印象的な虎ノ門ヒルズステーションタワー=東京都港区、2023年7月
麻布台ヒルズのビル群=2023年7月、東京都港区
インタビューに答える明海大不動産学部の金東煥准教授=2023年7月、千葉県浦安市


 ▽風景一変

 東京・虎ノ門。炎天下にガラス張りの摩天楼がまぶしい光を放つ。10月開業の虎ノ門ヒルズステーションタワー。

 折り紙を山谷状に折ったように角度をつけた独特な壁面デザインが印象的だ。森ビルが中核となった再開発で、名称通り地下鉄の駅と一体化した地上49階・地下4階、延べ床面積25万平方メートル超を誇る。

 もともと森ビル所有のオフィスビルなどがあった場所だが、大胆な変容ぶりに以前の面影はない。

 2023年の完成物件で最も大きいのは11月に開業する港区麻布台の麻布台ヒルズ森JPタワー。

 地上64階・地下5階、46万平方メートル超と巨大だ。大手町・丸の内・有楽町、日本橋・八重洲・京橋、渋谷といった地区でも大規模再開発が続き、いずれも風景が一変した。

 ▽賃料に「下方圧力」も

 新型コロナウイルスの感染拡大期、不動産業界で警戒されたのが「2023年問題」だ。大規模物件の完工が相次ぐ一方、リモートワークの定着でオフィスの需要縮小予測や不要論が台頭。大量の空室発生や賃料下落が懸念された。

 森ビルの調べでは、2024年の東京23区のオフィス供給量は73万平方メートルと2023年の6割弱に減るが、2025年は再び増加し136万平方メートル。

 その後は2026年72万平方メートル、2027年58万平方メートルと落ち着き、今後5年間の平均は年93万平方メートルと過去平均(102万平方メートル)を下回る。

 空室率はどうだろう。オフィス仲介の三鬼商事の調べでは、7月末の都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)の平均は6・46%。

 5%が需給均衡の目安で、これを超えると賃料の下方圧力が強まるとされる。現状は借り手市場と言えそうだ。高めの数字は空室を抱えたまま開業する新規物件などが影響している。

 ▽「二極化」と「一極集中」

 ただ業界は比較的平静を保っている。企業の出勤率が早期に回復し、2023年問題が想定ほど深刻化しなかったことが心理的に大きいようだ。

 森ビル幹部は「空室率は単純に低ければいいというわけでもない。企業が成長したいと思う時にわれわれがオフィスを提供できなければ成長機会を奪いかねない」と説明する。

 業界で認識が共通しているのは「物件による二極化」と「東京一極集中」だ。年数がたっていても立地やリノベーション次第で借り手がつく。

 野村不動産ソリューションズ幹部は「1次空室と2次空室の併存する状態がだらだら続く」と見る。

 ▽「悲観シナリオ」

 一方、地方都市は地域社会の諸機能を集約するコンパクトシティー化が空き家対策とセットで急務だが、高齢住民の対応力などには限界もあり容易でない。

 「地元の推進力の強弱で差が開いてきた」「全体的に進捗(しんちょく)が遅い」といった声が多い。

 5月、ザイマックス不動産総合研究所が発表したリポートに業界がざわついた。タイトルは「オフィスの未来」。

 バブル期大量に造られた中小ビルが老朽化して「空きビル問題」が発生、スラム化するリスクを指摘した。業界関係者の多くが実際には内心不安を感じていた悲観シナリオだ。

 同研究所の中山善夫社長は「景気が良くなればテナントが戻ってくるという従来思考から業界は脱するべきだ。オフィスビルは『終活』を積極的に考えるところに来ている」と警鐘を鳴らす。

 ▽近未来、需給崩壊リスクも シンクタンクが予想

 「デッドストック(不良在庫)化したビルの増加はスラム化につながる。『空きビル問題』が現実化する可能性がある」―。ザイマックス不動産総合研究所は5月に発表したリポート「オフィスの未来」で近未来の需給崩壊リスクを指摘した。

 リポートによると、バブル期、旺盛なオフィス需要を背景に不動産業はもとより一般企業や個人もビル事業に参入。その結果、都心部や周辺部で中小規模のオフィスビルが急増し、2000年時点では棟数ベースで約9割を占めた。

 これら中小ビルの平均築年数が20年後の43年には48・9年となり、多くが築50年を超える。大規模ビルも平均35・9年で、同様に老朽化が進行する。

 これまでは在庫増に需要が追いつく形で需給が均衡してきたが、生産年齢人口の減少や、人工知能(AI)の導入・デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展によりオフィス労働者自体が余剰化する可能性を考えると、今後大きな需要拡大は望めないとの見方を示した。

 市場では一定量空室がある状況が常態化。ビルの選別が進み、選ばれるビルと選ばれないビルがはっきりしてくるとし、オフィスニーズの量と質の変容が、拡大一辺倒だった時代を終わらせると予想。今まで何とかなってきたビル経営が、何とかならない時代になると警告している。

 ▽有識者は語る(明海大の金東煥准教授)
供給過剰も中長期では吸収

 オフィスの「2023年問題」は起きたのか。オフィス市場に詳しい明海大不動産学部の金東煥准教授に聞いた。

 ―オフィスの需給バランスが崩壊する2023年問題が騒がれた。

 「東京都心部の空室率は高めで推移している。新ビルで開業時半分ほどしかテナントが埋まらないケースや、テナントが新ビルに移り既存ビルが空室を抱える2次空室も増えている。需給バランスが崩れ気味なのは否定できず、そういう意味では2023年問題は起きた」

 ―2025年も大型物件が複数完成する。生産年齢人口が減っていく中で巨大ビルを増やし過ぎではないか。

 「東京一極集中が一段と進んでいる。それも都心部。東京はこの先、外国企業や外国人が増えていくだろう。主要都市の国際比較で賃料も高くなく魅力がある。一定時間はかかるが、中長期では市場が吸収していくと思う。需要は弱くない」

 ―2次空室の状況は改善しないのか。

 「既存物件は好立地のものが少なくない。リノベーションして割安感のある賃料にすれば競争力を回復できる。ただ長く借り手がつかない物件は用途を変えるなど対応が必要だ」

 ―地方、郊外はどうなっていくのか。

 「今のままでは厳しい。地域社会のさまざまな機能を集約するコンパクトシティー化をもっとスピード感を持って進める必要がある」
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 キム・ドンファン 1974年韓国ソウル生まれ。京都大院修了。日本不動産研究所などを経て2021年から現職。専門は不動産市場分析・予測。

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