密航50年滞在、男性に在留資格 「堂々と生きられる」

 10代前半の1970年ごろ、親族にだまされて韓国から密航させられ、約50年にわたり日本で非正規滞在を余儀なくされた大阪府の丁五鎮さん(64)に、国が「在留特別許可」(在特)を認めたことが7日、支援者らへの取材で分かった。丁さんは「人生のほとんどを隠れて過ごしてきた。ようやく堂々と生きられる」と話した。

在留特別許可が認められた丁五鎮さん(右)と支援を続けてきたNPO法人代表の市川真由美さん=7日午前、大阪市
在留特別許可が認められた丁五鎮さん(右)と支援を続けてきたNPO法人代表の市川真由美さん=7日午前、大阪市

 支援者によると、こうしたケースで在留資格が認められるのは異例とみられる。来日後、数年にわたり親族の商売を無給で手伝わされ「うろついたら捕まる」と言われていたといい、支援する奈良市のNPO法人「無戸籍の人を支援する会」代表の市川真由美さん(55)は「人身取引の犠牲者と言え、人道的配慮から在留資格を認めたのだろう」と評価した。
 丁さんは59年に韓国南西部の港町で生まれた。両親は幼い頃に亡くなり、兄の家で暮らしていた70年ごろに日本にいる親戚から来日を誘われた。正規の手続きで渡航できると考えていたが、親戚の指示通り南部・釜山港に行くと、貨物船の船底に押し込められた上、外に出られないようくぎを打たれ密航させられたという。
 20代後半の85年ごろからは事実婚関係の日本人女性と共に府内で飲食店を営んできたが、強制送還を恐れて出頭できずにいた。女性は2005年ごろに病死し、飲食店の収入も新型コロナウイルス禍で激減。非正規滞在で健康保険証がないため医療費を10割負担していたことも追い打ちをかけ、21年9月に在特を求めて大阪出入国在留管理局に出頭した。

 在留特別許可(在特) 強制送還の対象となる外国人に、法相が裁量で在留を認める制度。明確な基準はなく、日本人との結婚や、日本の学校に通う子どもがいるなどの事情を考慮するとしている。難民申請者に人道的配慮から在特を出す場合もある。強制送還に不服があり、外国人が異議を申し出た段階で在特の可否を判断。6月に成立した改正入管難民法で申請制に変更した。斎藤健法相は今月、日本生まれで、在留資格がなく強制送還の対象となる18歳未満の外国籍の子どもに在特を付与する方針を明らかにした。

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