いびつな政治家世襲、親にも子にも気の緩み【香山リカ てのひら診察室】

 内閣総理大臣秘書官の岸田翔太郎氏が、公邸内で私的な宴会を開催した際に不適切な写真を撮影したことが発覚し、更迭された。言うまでもなく、岸田元秘書官は岸田文雄首相の長男である。なぜこんなことが起きたのだろう。

香山リカ
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 その前に、首相秘書官とはどういう仕事かを確認しよう。安倍政権時代、女性としてはじめてそのポストについた山田真貴子氏は、首相官邸のホームページでこう語っている。「私は現在、安倍総理大臣の秘書官として、総理官邸で勤務しています。総理官邸は、あらゆる情報が集中し、内政、外交の重要方針を決め、推進していくところです」。これだけでもたいへんに重要な任務ということがわかる。
 当然のことながら、仕事においては身内の甘えは許されるものではない。家族で病院を開業している医師もいるが、多くは互いに一定の緊張感を保って診療にあたっている。そうでなければ患者さんの命にもかかわりかねないからだ。
 首相秘書官にも本来、それと同じかそれ以上の緊張感が必要なはずだが、どこかで親側に「政治家として跡を継がないと言われたら困る」という気持ちがあり、子側もその“親の弱み”を察して気をゆるめたまま職務についていたのではないか。今や日本の政治では、「親が子に地盤を継がせる」、つまり世襲による権力の委譲ができるかどうかが、最大の問題となっているからだ。それじたい、たいへんいびつなことであるのは言うまでもない。
 会社の創業者などとは違い、選挙でそのつど選出される政治家は、権力を私有できる立場にはない。それにもかかわらず「立派に世継ぎも行った。あの人はすぐれた政治家だ」と評価する雰囲気が有権者側にもあるとしたら、まずはそれを改めなければならない。
 もしバイデンやプーチンの子どもが国の最高権力者になろうとしたら、国民はどう反応するだろう。そう想像してみたら、いま私たちの国で起きていることの問題の深刻さに気づけるのではないだろうか。(香山リカ、毎週金曜に更新)

 ☆かやま・りか 1960年札幌市生まれ。精神科医、総合診療医。北海道むかわ町国民健康保険穂別診療所副所長。現代人の心の問題を中心に、社会批評など多彩な分野で活躍。『大丈夫。人間だからいろいろあって』『しがみつかない生き方』など著作多数。

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