核心評論「憲法世論調査の読み方」 要改憲7割は閉塞感の表れ 9条改憲でなく外交努力を

 「あなたは日本社会を改革する必要があると思いますか」。こう問われれば、ほぼ全員が「必要だ」と答えるはずだ。ではどんな改革か。「格差解消」を挙げる人もいれば「減税」の人もいるだろう。目指す方向は違っても「改革の必要性」では一致する。つまりこの問いで分かるのは、現状に対する不満の高さだ。
 憲法記念日を前に共同通信が実施した日本国憲法に関する全国世論調査で、改正が「必要」「どちらかといえば必要」との回答が、前年の調査から4ポイント増えて計72%に上った。3年前からは11ポイント増えている。
 もっとも、冒頭の「改革の必要性」と同様、何をどう改正するか明示していない設問である。戦争を知る世代の人口減もあろうが、要改正7割という数字は、物価高騰や少子化、国力の低下など日本社会を覆う閉塞感や国民の不満の表れと捉えるべきだ。改憲でさまざまな問題が解決すると考える「改憲ばら色論」が空論に過ぎないことも指摘しておきたい。
 では閉塞感の打破に何が有効か。改憲の国民投票は1回で推計六百数十億円の経費や膨大な労力を要し、条文改正後も具現化のためには法律や予算が必要だ。
 一方、打破に資する法律や予算に改憲はほぼ不要であり、必要なのは政権の本気と国民の理解だ。安倍晋三政権下で打ち出された自民党「改憲4項目」のうち(1)緊急事態対応強化(2)教育充実(3)参院選「合区」解消―は、いずれも改憲が必須ではなく、法律で対応できる。残るのは「9条への自衛隊明記」だけだ。
 今回の調査では9条改正が「必要」と答えたのは53%。理由としては「北朝鮮の核・ミサイルや中国の軍備拡張、ロシアのウクライナ侵攻など日本や世界の安全保障環境の変化」が75%を占めた。日本が攻撃される事態への不安が広がっている証左だろう。
 「日本に牙をむく周辺諸国」と日本維新の会の馬場伸幸代表は衆院憲法審査会で発言した。だが、周辺国が突如襲いかかる事態はあり得るのか。防衛問題に詳しい山崎拓元自民党副総裁は「まずない」と断言する。
 北朝鮮の弾道ミサイル発射実験のたびに発せられる全国瞬時警報システム(Jアラート)や避難訓練、議員らの言動が必要以上に不安をあおってきた面は否定できまい。
 真に懸念されるのはウクライナ型の侵攻ではなく、台湾や朝鮮半島の有事の際に巻き込まれることだ。集団的自衛権行使として参戦すれば沖縄をはじめ各地の基地が攻撃の標的となろう。
 憲法学者の愛敬浩二早稲田大教授は「いま護憲であることが現実的だ」と指摘する。平和を望むなら、重要なのは参戦を容易にし自衛隊活動を際限なく拡大しかねない9条改正ではない。有事の発生を防ぐ外交努力だ。(共同通信記者 阿部茂)

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