「ジャニーズ問題」 徹底した事実調査を 性被害抑止へ急務 琉球大准教授/白木敦士【視標】

 ジャニーズ事務所のジャニー喜多川前社長(2019年死去)から性的行為を受けたとする証言が相次いでいる。証言された行為は、事実であれば被害者の同意の有無にかかわらず、児童福祉法違反や東京都青少年健全育成条例違反に該当する上、強制わいせつ罪や準強制わいせつ罪などを構成する可能性がある。

白木敦士・琉球大准教授
白木敦士・琉球大准教授

 さらに、17年の刑法改正により、男性も強制性交罪や準強制性交罪(それぞれ強姦罪、準強姦罪から改正)の被害者に含まれることになった。喜多川氏の行為が、改正以降に行われていたとすれば、法定刑が懲役5年以上とより重いこれらの罪をも構成し得る。
 解明されるべきは、喜多川氏の疑惑にとどまらない。複数の関係者が同氏の行為を認識していたとの証言もあり、芸能界を代表する企業の経営トップによる重大な加害行為が、組織的かつ長期間にわたり隠匿され続けた疑いがある。
 現在、ジャニーズ事務所に所属する人たちにも、多数の被害者が存在する可能性があり、実態の解明は急務である。子どもに対する性的虐待は長期間、被害者の心身に深刻な影響を及ぼすことが知られている。
 だが、ジャニーズ事務所は「コンプライアンス順守の徹底を進める」などと短いコメントを発しただけで、真剣に向き合う姿勢は感じられない。独立した第三者委員会を設置し、所属タレントのプライバシーに配慮した上で個別の聴取を実施するなど、効果的かつ抜本的な事実調査を行うべきである。
 その際、子どもへの聴取は専門家に依頼するなど、二次被害を防ぐ工夫も必要だ。また、この疑惑に対する藤島ジュリー景子社長の認識や認識した時期、その後の対応もつまびらかにするべきだ。
 米国では、17年に映画界の大物プロデューサー、ハーベイ・ワインスタイン氏から性的虐待を受けた女性が声を上げた。ニューヨーク・タイムズ紙の記者は、記事化を決断し、世界的な「#MeToo」運動につながった。記事は捜査機関を動かし、同氏は実刑判決を受け、収監された。米国社会は、勇気ある被害者の声を無視しなかった。
 疑惑はジャニーズの影響を強く受ける10代の子どもたちの間にも広く知れ渡っている。近年、学校の教職員による、優越的な地位を利用した子どもへの性暴力が問題化している。疑惑を放置することの最大の弊害は、子どもたちに対し、性暴力の被害者になった場合に、声を上げても無駄であると、諦めの気持ちを植え付けることにある。
 多くの少年少女たちが夢見る芸能界デビューの条件が、犯罪の被害者になることなどであってはならない。今後同種の被害を防ぐためにも、事案の徹底解明が急がれる。
 日本社会が直視しない限り、性暴力は生き延び続ける。ジャニーズ文化の中で育った私たち大人にとって、その直視は苦痛を伴う。覚悟が問われているのは、ジャニーズ事務所だけではない。私たち大人は、何を恐れているのか。

 しらき・あつし 1986年名古屋市出身。早稲田大卒。専門は米国家族法、国際民事訴訟法。2011年司法試験合格。ニューヨーク州弁護士。コロンビア大学客員研究員などを経て23年4月から現職。

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