水素戦略 新国債呼び水に野心的目標 切り札期待もハードル高く【表層深層】

 政府が化石燃料に代わるエネルギーとして期待する水素の導入目標を大幅に引き上げた。脱炭素投資に向けた新たな国債を呼び水に、燃料電池車(FCV)や水素発電など次世代技術の普及をもくろむ。脱炭素とエネルギー安定供給を両立させる切り札に水素を据えたい考えだが、コスト面など実現に向けたハードルは高い。

トヨタ自動車の燃料電池車「MIRAI(ミライ)」(同社提供)
トヨタ自動車の燃料電池車「MIRAI(ミライ)」(同社提供)
水素の活用イメージ
水素の活用イメージ
トヨタ自動車の燃料電池車「MIRAI(ミライ)」(同社提供)
水素の活用イメージ

 ▽大競争時代
 「実現困難なくらい高い目標を掲げて取り組まなければ、脱炭素社会は実現できない」。4日に示した基本戦略の改定案で、水素供給量を2040年に現状の6倍まで増やすとした狙いを、経済産業省の幹部は解説した。政府は温室効果ガスの排出を50年に実質ゼロとする目標を掲げるが、石炭などの火力発電への依存度は高いままで「国際公約」の達成が危ぶまれるのが実情だ。
 国内生産できる水素は「エネルギー安全保障と温暖化問題を解決する切り札」(安倍晋三元首相)として有望視され、17年に策定した基本戦略で水素発電の商用化などを打ち出した。だが欧州連合(EU)なども水素産業を発展させる戦略を策定し、活用の動きを加速させる中「もう一度ねじを巻かないと大競争時代に取り残されてしまう」(経産省幹部)との危機感が高まっていた。
 政府が「野心的な導入量目標」(改定案)を実現する起爆剤と位置付けるのが、23年度後半に発行を始める「グリーントランスフォーメーション(GX)経済移行債」だ。調達した資金を投入することで民間投資を呼び込む絵図を描く。
 ▽供給網
 水素技術の開発に取り組んできた企業は政府の後押しに期待する。燃料電池の発電システムを手がける東芝エネルギーシステムズは、ホテルなど120カ所以上の納入実績がある。水素の製造から流通まで大規模なサプライチェーン(供給網)ができれば需要が大きく伸びるとみており、担当者は「(インフラ構築は)1社だけではできない。自治体や国との協力が不可欠だ」と強調する。
 「全方位」の自動車戦略を掲げ、水素の活用にも力を入れるトヨタ自動車。自身が運転する水素エンジン車でレースに参戦したこともある豊田章男会長は「電気自動車(EV)も重要な選択肢。ただ、唯一の選択肢にはならない」と訴えてきた。FCVの「MIRAI(ミライ)」を販売し、水素エンジン車の市販も目指している。
 ▽化けるか
 海外ではEUがこれまでの方針を転換し、水素を原料とする合成燃料「e―fuel(イーフュエル)」を使ったエンジン車の販売を、将来も容認することを決めた。工場などから回収した二酸化炭素(CO2)と合成して製造するため、温室効果ガス排出をゼロとみなせる。
 ガソリンスタンドなど既存の施設を活用できるメリットもあり、水素の有力な用途となる可能性があるが、課題は現状でガソリンの数倍も高いコストだ。
 合成燃料に限らず、水素の活用にはインフラ整備と並んでコスト低減が最大の課題となる。関連事業を手がけるメーカーの関係者は「水素は開発コストがかさみ、現状では『金になる事業』に化けるかは微妙だ」とこぼした。

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