古川飛行士 飛行士「看板」研究に利用 責任者の古川氏へ厳しい声

 宇宙飛行士で医師の古川聡氏が研究実施責任者を務める実験で発覚した不正は、無理な計画と、ずさんな進行が招いた結果だった。宇宙航空研究開発機構(JAXA)は不正への直接関与はなかったとしているが、飛行士という「看板」が助成金の獲得や被験者集めに有利に働いた可能性があり「弁解の余地はない」(専門家)との厳しい声も出ている。

記者会見で謝罪するJAXAの佐々木宏理事(左)ら=11月、東京都千代田区
記者会見で謝罪するJAXAの佐々木宏理事(左)ら=11月、東京都千代田区
不正があった研究の実施体制
不正があった研究の実施体制
記者会見で謝罪するJAXAの佐々木宏理事(左)ら=11月、東京都千代田区
不正があった研究の実施体制

匿名
 「飛行士の業務が多く、研究に十分な時間を割けなかった」。11月25日に開かれたJAXAの緊急記者会見で佐々木宏理事は古川氏をかばった。発表資料では名前を伏せたが質問で追及され、氏名を明かした。
 研究データの捏造や改ざんといった不正が発覚したのは2016~17年に行った、宇宙基地を想定した閉鎖環境施設での実験。成人計40人が約2週間滞在し、精神的なストレスを評価するため尿や血液などの状態を検査した。JAXAは、直接不正に手を染めたのは別の2人の研究者だけで「古川氏は全く気付けなかった」とした。
 古川氏が研究代表者として採択された文部科学省の研究費は15~19年度に計約9600万円。16年には古川氏が自ら記者会見を行い、研究の意義を説明していた。ある宇宙医学の専門家は「研究を進める上で、飛行士の知名度を活用したのだろう」と指摘する。
疑問
 研究不正に詳しい中村征樹大阪大教授(科学技術社会論)は、大勢の被験者が負荷の高い環境に置かれた研究でもあり、もし古川氏が十分に関与できていなかったのなら、責任者となったこと自体も問題だと指摘する。
 場合によっては、執筆の実態がない人物が著者に名を連ねる「ギフトオーサーシップ」と呼ばれる不適切行為に当たる恐れもあった。今回は研究が中断され、論文の公表には至っていない。こうした事情を踏まえれば、文科省のガイドラインの「特定不正行為」には当たらないとJAXAは主張するが、中村氏は「研究態度に問題があり、ずさんな行為が続けられた。研究不正と呼ぶべきだ」と断じる。
 宇宙政策を担当する高市早苗・科学技術担当相も11月29日の閣議後記者会見で「管理監督責任を負う古川氏が不正に気付かなかったのは、はなはだ疑問だ」と述べた。18年1月には最初の不適切事案が発覚したとあって「JAXAの公表までの対応は非常に遅かった」としている。

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