作家の小砂川チトさん 自由な小説、楽しんで書く

 デビュー作「家庭用安心坑夫」が芥川賞候補入りした際の驚きを「パニックだった」と表現する作家の小砂川チトさん。惜しくも受賞は逃したが、選考委員から「懸命であればあるほど滑稽になってしまう人間のもの悲しさが表れていた」などと評価された。

「読みの可能性、余白を残して書きました」と話す小砂川チトさん
「読みの可能性、余白を残して書きました」と話す小砂川チトさん

 「作風が固まるのはこれから。今の時代に時間を使って読んでもらえる作品を書けるか、闘っていかないといけない」
 群像新人文学賞に輝いた「家庭用安心坑夫」は、東京で夫と暮らす小波(さなみ)の日常に、謎のマネキン人形が出没するところから始まる。小波には、秋田の廃鉱山を利用したテーマパークに並ぶ鉱員人形の一つ「ツトム」を「父」だと教えられて育った過去があった。
 「父」の現状を確かめようと、実家のある秋田に向かう小波。その語りには過酷な半生が垣間見えるが、マネキンたちとの「再会」は祝祭的な歓喜とともに描かれる。「つらい中でユーモアを持って状況を捉え直していく主体性、一方的な被害者にならない強さを出したかった」と語る。
 盛岡市出身。幼い頃から映画や漫画に親しみ、小学4、5年生で「人間失格」を読み太宰治にはまった。「いつか小説を書いてみたい」と思いつつ、大学院まで進み認知神経科学を学んだが、博士課程への進学は断念。26歳ごろにアルバイトをしながら執筆を始めた。
 「研究では仮説を実験で立証するのが大変で苦痛だった。小説を書き始めるとすごく自由で楽しかった」。エンターテインメント作品を4、5作書き上げた後、純文学に転向、3作目が大きな飛躍につながった。作品に意見をくれる夫と暮らす。「(読者が)なるべく楽しんでもらえるように意識して書いています」

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