全国に広がる地震や津波の観測網。しかし、駿河湾はいま“観測網の空白域”と指摘される事態になっています。観測施設の老朽化でピンチを迎えています。
<東海大学海洋学部 馬塲久紀准教授>
「こちらは東海大学海洋学部の機材倉庫。3か月から半年、長い期間だと1年間になるが、海底下に設置してその期間ずっと地震を観測する装置」
東海大学海洋学部(静岡市清水区)の機材倉庫に置かれた装置。おもりをつけた土台に観測機器を搭載した自己浮上式海底地震計(OBS)です。東海大学海洋学部では2011年からOBSを使って駿河湾の海底での地震観測を実施してきました。
<馬塲准教授>
「1970年代に言われ始めた東海地震の震源域が駿河湾から始まる。そのため、駿河湾で観測するということは、東海地震の前兆現象をつかむことができる可能性が高かったから」

海底での地震をより近くで記録するために「OBS」を船から海に沈めます。数か月後、船から指令を送ると自らおもりを切り離して海上に浮上。リアルタイムではありませんが、蓄積した数か月分の地震データを回収できます。
陸上と違って海の中は、雨や風、車などのノイズがほとんどなく、水圧に耐えるガラス球の中で小さな揺れも逃さずキャッチします。
<馬塲准教授>
「ガラス球を叩くと、振動がきれいにみえる」
<防災担当 和田啓記者>
「波形がしっかりと反映される」
全国には、地震や津波の観測機器が張り巡らされていて、静岡県にも陸上を中心に多くの観測点があります。しかし、駿河湾にはなく、「OBS」で観測を始めたことでわかったことがあります。
<馬塲准教授>
「『OBS』については駿河湾の中央部、プレート境界において地震計(OBS)を設置している。駿河湾の中で起きる地震については相当、この海底地震計『OBS』によってとらえられた数は大きくなる」
「OBS」は、駿河湾における地震を陸上の地震計と比べて、3倍ほど多く観測できたといいます。ところが、機材を置く倉庫が老朽化したことなどで2024年10月から一時的に観測を停止。海底で唯一の地震観測がなくなり、駿河湾は“観測網の空白域”とも指摘されたのです。
<馬塲准教授>
「駿河湾も他の地域と同じで大変地震活動はあるので、そういう意味では静かな場所ではない」
「清水も『丸やけ』興津も『津なみ打込む』」
一見、穏やかな静岡の海でも170年前の江戸時代には巨大地震が起きています。安政東海地震です。
<防災専門図書館 矢野陽子さん>
「『東海道筋大地震大津波大出火』というかわら版になる。マス目上に色々な地名が書かれているが、地名ごとにどのような被害があったか、絵図とともに説明している。吉原(現富士市)は『丸やけ』と書いてある。上の江尻も」
<和田記者>
「清水も『丸やけ』」
<矢野さん>
「となりの興津もそう。『津なみ打込む』と書いてある」
<和田記者>
「浜松の方もある。『浜松大地しん』。舞阪は津波にて…」
<矢野さん>
「『家一軒もこれ無し』」

安政東海地震では、静岡県内の各地で震度7の揺れがあったとされています。
<矢野さん>
「南海トラフ地震というのは、周期性があって過去に何回か起きている。さて、次必ず、起きる。過去の災害を私たちが、なぜ学ぶのかというと『備えておけば』ができるからだと思う」
東海大学の馬塲准教授は「OBS」を使った海底での地震観測をできるだけ早く再開し、駿河湾の変化を捉えたいと話します。
<馬塲准教授>
「起きないに越したことはない。けれど、起きなかったら、次、万が一起きた時には一回り、二回り大きな地震になる可能性が高いというようなことも知っておいていただければと思う」
馬塲准教授は、なるべく海底観測の途切れる期間を短くしようと、3月末にはOBSによる観測を再開したいと意気込んでいます。巨大地震のトリガーとなる地震や変化を捉えるべく研究者の地道な努力が続けられていますが、同時に情報を受けとる我々の準備や心構えが大切になってきます。