「自分のことを叱ってほしかっただけです」50歳の息子はライターで両親がいる自宅に火を放った

午後7時頃、静岡県沼津市の住宅街で起こったアパートの一室を全焼する火事。焼け跡からは1人が遺体で見つかった。7時間半後、放火の疑いで逮捕されたのは、アパートに住む50代の男だった。男はなぜ、家族と暮らす部屋に火を放ったのか。

現住建造物等放火の罪に問われたのは、トラック運転手の男、51歳。

男は、2023年12月19日午後7時頃、静岡県沼津市の自宅アパートのリビングで、火をつけたクッションをソファーベッドに置き、部屋を全焼させた罪に問われていた。部屋には、当時78歳の父親と80歳の母親がいて、焼け跡からは、逃げ遅れた父親が遺体となって見つかった。

2024年12月13日、火事から1年経って始まった裁判員裁判で「間違いありません」と男は起訴内容を認めた。

事件の日、男は、母親が食事の支度をしていなかったことに怒り、テーブルやソファーベッドをひっくり返した。荒らされた部屋を両親が片付けている間に、男はライターでクッションに火をつけたという。

証言台に立った男が、そのワケを話した。

「こういうことになっても、自分のことを見てくれないのか」

Q.なぜ、クッションに火をつけた?
「なんで、両親はここまでしても自分のことに関心を持ってくれないんだろうか。自分の行動をなんで見てくれないんだろうか。そういうことを考えると、苛立ちが大きくなり、居間に行って椅子の上に置いてあったクッションに火をつけて関心を持ってもらおうと思いました」

Q.なぜ、火をつけるという行為になった?
「自分のことを叱ってほしかっただけです。注意してほしかっただけです」

火が広がり始めても、両親は気づかず、片づけを続けていたという。

Q.気づかない両親をどう思った?
「こういうことになっても、自分のことを見てくれないのかって苛立ちもありました」

両親の気を引きたい。

その一心で放った火は、両親と暮らしていた部屋を全焼し、父親の命をも奪ってしまった。父親が火災から逃げ遅れていることに気づいた男は、叫ぶように周囲の人に頼んだ。

「俺に水をかけてくれ。お父さんが中にいる」

火の中へ助けに戻ろうとしたが、近所の人に引き留められたという。

亡くなった父への気持ちを問われた男は、涙ながらに後悔を口にした。

「申し訳ない、苦しい思いをさせて申し訳ない」

裁判の審理を終える「結審」の日。検察側は「考えや生活態度が幼稚で自己中心的。動機は極めて短絡的かつ身勝手で、酌量の余地などまったくない」「人の死亡という重大で回復不能な被害が生じた」などとして懲役10年を求刑。

一方、弁護側は「自分を見てもらいたくて、気を引くために行ったものであり、両親や近隣住民を傷つけるつもりはなかった」「計画性・積極性はない、発作的・衝動的な行為で、強い犯意もない」などとして、執行猶予付きが相当であると主張した。

「お母さん、ごめんなさい」

最終意見陳述で証言台に立った男は、涙で声を詰まらせながら、15分にわたって思いを語った。

「被害を被った住人の皆さん、周辺にお住まいの方々、ご迷惑をおかけして申し訳ございません」

「本当に今回の事件は、私が両親に対する甘え、自分自身の身勝手さ、軽率な考え方と行動、人間として許されない行動を起こしたこと、それを背負いながら罪を償っていきたいと思います」

「お母さん、ごめんなさい」

2024年12月19日、判決の日。

裁判長は「犯行動機は自己中心的で身勝手というほかない。他方で、計画性がなく感情的に犯行に及んでおり、火を大きく燃え上がらせるつもりもなかったことはある程度考慮される」などと認定。男に懲役7年の判決を下した。

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