開場100周年を迎えた甲子園球場でこの夏、旋風を巻き起こしているのが、創部100年を超える公立の伝統校です。1915年の第1回大会の地方大会から出場する大社(島根)が、春のセンバツ準優勝校・報徳学園(兵庫)相手に63年ぶりの勝利を挙げると、1901年創部の掛川西(静岡)も60年ぶりに夏の選手権1勝を挙げました。
その掛川西が世の中をざわつかせたのが、迫力ある大声量の応援です。8月10日に行われた日本航空(山梨)との試合では、アルプス席が完売。一塁側スタンドを埋めた在校生、卒業生、そして熱狂的なファンによる全力の声援が甲子園球場を揺らしました。ネット上には「声量がハンパない」「鳥肌立った」「応援の迫力、去年の慶応並みに凄まじい」と驚きの声があふれました。

70年以上の歴史を誇る掛川西高応援団のスタイルは、ズバリ「バンカラ」。詰襟の学生服を身にまとった団員のリードのもと、「大進撃」や「ダッシュKEIO」「ダイナマイトマーチ」といった野球ファンにおなじみ、何十年も変わらない応援歌にあわせて響き渡る大声量は、もはや、静岡の高校野球の風物詩、そして、唯一無二のものとなっています。
そのベースとなっているのが、とにかく厳しいことで知られる新入生を対象とした応援指導。卒業生が口々に「地獄」と振り返る練習は、入学直後から2か月続き、約20の応援パターン、そして“カケニシ”の「DNA」が叩き込まれます。応援団は、心を鬼にして新入生に応援の厳しさを伝えるのが「伝統」とされてきました。
しかし、少子化に加え、新型コロナの影響によって、声出し応援が禁止されたこともあり、2022年度の応援団への新入部員はゼロ。翌年の春には、部員はわずか1人のみ、という非常事態に陥ります。
「このままでは応援団を残せない」
そこで、当時の応援団長は、時代に合ったスタイルへの変更に踏み切ります。
「応援に思いを持ってくれているのではあれば断る理由はない」
「まずは形を覚えて来てください。発声の時にはひじを地面と平行になるように上げてください」

2023年度の応援指導のワンシーン。村松真広応援団長(当時)は、今まででは考えられない丁寧な口調で応援を教えていました。生徒の間を練り歩くことも極力控え、給水も積極的に促します。さらには、困らないようにと、解説付きの動画を作成し、1年生全員に配りました。
改革はこれだけにとどまりません。バンカラとは対極にあるダンス部とのコラボ応援をすることも決めました。
「前例がないことなので、すべてが試行錯誤しながらやることが大変だと感じます。(応援団を)存続させることを第一に考えました。応援に思いを持ってくれているのではあれば断る理由はないと」(村松真広団長・当時)
時代の流れにあわせて、改革を断行した応援団。あれから1年、卒業生たちによる即席バンドが奏でる伝統の応援歌、大学野球のチアを彷彿とさせる切れのあるダンス、そして、地鳴りのような声量、新たな「カケニシスタイル」の応援が、甲子園を埋めた観客の心に刻まれました。

「掛川西高校では、生徒全員が応援団員です。生徒全員でともに戦うのは、この掛川西高校が誇る独自の文化であると思っています。自分はそれを絶対に、いまここで絶やしてはいけないと思っています」(村松真広さん)
8月15日に2回戦を迎える掛川西高。変化を恐れず、守るべきものは守り抜いた全力の大声量応援のDNAは、次の100年へと受け継がれます。
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