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キャンプ×ビール ベアードブルーイングの魅力に迫る

 米国出身のブライアン・ベアード代表が沼津市に創業したクラフトビール醸造会社「ベアードブルーイング」。クラフトビール業界の草分け的存在で、2018年からは醸造所併設のキャンプ場を運営しています。キャンプとできたてのビールを楽しめる場として人気を集める「キャンプベアード」と、ベアードさんのビール作りへのこだわりをご紹介します。

キャンプ場に「乾杯」の声 年間40種 出来たて提供

 静岡、山梨、長野、新潟4県の県紙がリレー形式で地元のクラフトビールを紹介する連載企画「クラフトビール群雄割拠」の第5回。2巡目の第1弾は、醸造所併設のキャンプ場が人気の「ベアードブルーイング」を静岡新聞が取り上げる。

ライトアップされた醸造所の前で乾杯するキャンパー=伊豆市のキャンプベアード
ライトアップされた醸造所の前で乾杯するキャンパー=伊豆市のキャンプベアード
 狩野川のほとり、広葉樹に囲まれた4階建て相当の醸造所の周辺に大小のテントが並ぶ。2018年6月開業の「キャンプベアード」(伊豆市)は、日本におけるアメリカンエール人気の火付け役の一つ「ベアードブルーイング」(同)が運営する。全国でも珍しいビールメーカー直営のキャンプ場だ。
 最大の特徴は出来たてのビールが飲めること。同社はラガー、IPA、スタウトなど定番12種をはじめ、ミカンや梅、ビワなど旬の果実を使ったものなど季節に合わせて年間約40種を発売する。醸造所内のタップルーム(パブ)では、このうち約20種を提供している。キャンプ場管理マネジャーの神田航平さん(41)は「いかにビールをおいしく飲んでもらえるかを中心に置いた施設」と胸を張る。
 春、秋を中心に1カ月当たり300~400組が利用し、週末の予約は3カ月先まで埋まる。半数以上が首都圏からで、静岡県民も約2割を占める。22年は6回利用したという静岡市駿河区の団体職員(61)は「川のせせらぎを聞きながら、多彩なビールをのんびり飲める。こんな場所は他にない」と言い切る。
 醸造所内には1万2千リットル、6千リットルの発酵タンクが計10本並ぶ。日本のクラフトビール業界で屈指の規模だ。製造能力拡大を目指し、14年に沼津市から本社工場を移した。用地はもともとキャンプ場だった。閉鎖後に長い時間がたっていたため、新キャンプ場開設を前に重機で土地を整備し、トイレやシャワー室などを新築した。
 ブライアン・ベアード代表(55)=米国出身=は、当初からビールとキャンプの相性の良さについて確信があった。「ビール造りは歴史的に農業の一環として生まれた作業。自然の恵みを楽しむという点で、キャンプと共通する」というのが持論だ。「キャンパーの8割は僕らのビールを知らない。でも、そういう方々に上質なアルコール製品としてアピールしたい。キャンプ場はそのためのツールと考えている」

この1杯 熟成長く 出荷後も味進化
「ダークスカイインペリアルスタウト」
 「ダークスカイインペリアルスタウト」はベアードブルーイングの冬限定ビール。深く焙煎[ばいせん]したモルトの丸い味わいと、爽やかなホップの香りを併せ持つ。
 同社では色の黒さが特徴の「スタウト」を複数製造しているが、「ダークスカイ-」は最も熟成期間が長い。麦汁をタンクに入れてから出荷まで数カ月かける。ベアード代表は「出荷後も味が進化する。開栓のベストタイミングは人によって違う」と話す。
 アルコール度数は10%で、ビールとしてはかなり高い。神田マネジャーは「冬場のキャンプでたき火を見ながらゆっくり飲むのにぴったり」と提案する。(文化生活部・橋爪充)
 〈2023.01.28 あなたの静岡新聞【クラフトビール群雄割拠 静岡/山梨/長野/新潟⑤】〉

キャンプベアード 狩野川眺めビールも堪能

 クラフトビール業界の草分け的存在「ベアードビール」をどこよりも楽しんでもらうため、伊豆・修善寺に2018年にオープン。狩野川を眺めながらビールとキャンプをゆったりと堪能できます。

山桜や菜の花が咲き誇る狩野川沿いの敷地=伊豆市大平
山桜や菜の花が咲き誇る狩野川沿いの敷地=伊豆市大平
 4月前半はオートサイトから見える山桜と菜の花のコントラストが美しく、野鳥の鳴き声も増える時季。カラフルで大きな鳥を見かけたら、それは隣の林にすむキジです。時々、駐車場に遊びに来ます。農園ではビール用に育てているホップが芽吹いて、少しずつ蔓[つる]が伸びてきました。梅とビワはもうすぐ収穫。こちらもビールに使います。
 キャンプ場から10分ほど歩くと、ジオサイトに指定されている名勝・旭滝があります。普段は糸のように細い流れが瀑布[ばくふ]となって高さ60メートルの岩場を一気に滑り落ちてきます。すぐそばから見上げると飛んでくる水しぶきがとても気持ち良く、朝の散歩のお薦めコースです。(マネージャー 神田航平)
 施設概要 伊豆市大平1052の1▽シャワー、トイレ、オートサイト、敷地内にブルワリー▽料金 入場料20歳以上1200円、サイト料金3000円~▽問い合わせ<電070(8999)3395>※受け付けは午前9時~午後5時
 〈2023.04.12 あなたの静岡新聞「キャンプ場だより」〉

沼津で創業 ベアードブルーイングのこだわり

​※2014年9月8日 静岡新聞朝刊(表記は掲載日時点)

仕込み前にアメリカ産生ホップの状態を確認するブライアン・ベアードさん(左)、さゆりさん夫妻=伊豆市大平のベアードブルーイング
仕込み前にアメリカ産生ホップの状態を確認するブライアン・ベアードさん(左)、さゆりさん夫妻=伊豆市大平のベアードブルーイング
 香りが華やかな「ペールエール」、苦みが強い「IPA」、真っ黒な「スタウト」―。クラフトビール醸造会社「ベアードブルーイング」(伊豆市)の特徴は、品目の多さだ。年間を通じて供給するのは12種。期間限定、数量限定を含めると約60種に上る。
 「香り、味、色の多様性がビールの魅力」。代表で醸造責任者のブライアン・ベアードさん(47)=米カリフォルニア州出身=は言い切る。ミカンやビワなどの果物、カボチャや唐辛子などの野菜を使う場合もある。「複雑さとバランスの両立」がテーマだ。
 今春、生産工場を沼津市から移設した。年間醸造能力は約300キロリットルから約6千キロリットルに。近年人気を高めるクラフトビールのメーカーとしては、国内最大級の設備を誇る。
 沼津港近隣に開いたビアパブで自家醸造ビールの提供を始めたのが2001年。仕込み量は1回当たり30リットルだったが、段階的に設備を拡充した。今は全国約400カ所の酒販店や飲食店に出荷し、米国など8カ国に輸出もする。
 二人三脚で歩む妻さゆりさん(47)は「丁寧に伝えれば、世の中に必ず理解されるという信念があった」と振り返る。
 工場内のブライアンさんの部屋には、レシピをとじたファイル約150冊が並ぶ。それぞれ異なるビールの名前が書かれている。
 レシピは科学の知識や経験に、想像力を組み合わせて考案する。ビールの個性を決める上で、麦芽と並んで大きな役割を担うのがホップ。主に香りと苦みのもとになる。つる性の植物で、受精前の雌花「毬花[きゅうか]」を使う。
 米国、ドイツ、オーストラリアなどから20種以上を取り寄せる。国内のほとんどの醸造所は粉末を固めたペレット状のホップを用いるが、ブライアンさんは毬花を乾燥させただけの「生ホップ」に限定する。「できるだけ未加工の材料で仕込む。それがビール造りのあるべき姿」と哲学を語る。
 レシピはホップの種類や量、麦汁に投入する時期を細かく設定。タンクで熟成する前にホップを再投入する手法「ドライホッピング」も組み合わせる。業者と工夫を重ね、専用機器まで開発した。
 ホップの栽培も始めた。工場敷地内の農園で4種約120株を育てる。農園担当の志沢勇太さん(31)は「無農薬なので管理が難しい」と話す。毎朝1株ずつ点検し、害虫は手で取り払う。
 作付面積は拡張予定。志沢さんは「新しい挑戦」と胸を張る。今月中旬、初めて自家栽培ホップで仕込んだビールが完成する。
 15年前は、生ビールのたるを改造した設備を使い、自宅ベランダで試験醸造を繰り返していた。定番のIPAなどは、そのころにレシピができた。「『地ビール』と呼んでほしくない。これは職人が創作する『クラフトビール』」とブライアンさん。新しい発想のレシピ考案は続く。(東部総局・橋爪充)