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“大人が楽しむ楽器”鍵盤ハーモニカ 人気沸騰の理由は?

 幼い頃、多くの人が演奏経験を持つ鍵盤ハーモニカが近年、“大人が楽しむ楽器”として注目されています。日本の鍵盤ハーモニカ発祥の地とされる浜松市。地元の楽器販売会社が大人向けの普及活動に乗り出しました。活動内容や鍵盤ハーモニカの歴史をまとめました。
 〈静岡新聞社編集局未来戦略チーム・寺田将人〉

音楽療法として注目 大人向けモデルも豊富

 息を吹き込みながら指で音を鳴らす「鍵盤ハーモニカ」を使って健康増進やコミュニケーションの活性化を図ろうと、発祥の地の浜松市の楽器販売会社が大人向けの普及活動に乗り出す。音楽教室での個別指導に加え、高齢者施設や事業所に講師を派遣する出前教室などを計画する。

気軽に演奏できる鍵盤ハーモニカ。浜松の楽器販売会社が大人向けの普及活動を始める=2月上旬、浜松市南区の鈴木楽器販売
気軽に演奏できる鍵盤ハーモニカ。浜松の楽器販売会社が大人向けの普及活動を始める=2月上旬、浜松市南区の鈴木楽器販売
 企画したのは、国産初とされる鍵盤ハーモニカ「メロディオン」を製造した鈴木楽器製作所(中区)の製品を取り扱う鈴木楽器販売(南区)とアオイ楽器店(中区)。
 鈴木楽器販売の多田和修執行役員営業推進部長は「鍵盤ハーモニカは子供向けの教育楽器とのイメージが強いが、大人向けモデルも増えている。年齢を問わず、楽しく簡単に演奏できることを知ってほしい」と話す。
 鍵盤ハーモニカは多くの人が小学校などで演奏経験がある。年齢を重ね、時間の余裕を得やすくなった世代を中心に再挑戦してもらい、演奏者の裾野を広げる狙いだ。第1弾のイベントとして25日、同社で音楽と呼吸をテーマにした鍵盤ハーモニカのセミナーを開いた後、出前教室などの事業をスタートする。セミナーはオンラインでも公開予定。
 腹式呼吸を利用する楽器演奏は、呼吸器系機能や嚥下(えんげ)機能の向上、脳の活性化、ストレス解消などの効果が期待され、「音楽療法」として注目されているという。
 アオイ楽器店の川上嘉将社長は「健康づくりとともに、職場の仲間同士で演奏すれば、横のつながりが強まるのでは」と波及効果に期待する。
 〈2022.02.21 あなたの静岡新聞〉

メロディオンは昨年誕生60周年 コロナ禍で巣ごもり需要追い風

 教育楽器などを手掛ける鈴木楽器製作所(浜松市中区)は鍵盤ハーモニカ「メロディオン」の誕生60周年を記念し、3色の限定モデルを発売した。鍵盤ハーモニカは愛用するプロミュージシャンが近年急増し、コロナ禍の巣ごもり需要も手伝って人気が沸騰中。発売から約1カ月が経過しても注文が殺到していて、同社は節目を機に看板製品のPRを一層強化する考えだ。

誕生60周年を記念した限定色モデルの「メロディオン」をPRする多田和修執行役員(右)ら=浜松市中区の鈴木楽器製作所
誕生60周年を記念した限定色モデルの「メロディオン」をPRする多田和修執行役員(右)ら=浜松市中区の鈴木楽器製作所
 国内初の鍵盤ハーモニカといわれる「スーパー34」を生み出した1961年以来、改良や製品群の拡充を重ね、全国の児童と大人に親しまれてきた。
 限定モデルは大人向け上位機種「PRO-37v3」をベースに、緑、黄、赤の3色をそろえた。同社のイメージカラーの緑と黄にはそれぞれ「成長」と「創造」を、赤に“60歳”を祝う思いと「情熱」の意味を込めた。
 ステージ上で鮮やかに輝くよう光沢を施し、音色を重視した金属カバーを採用した。肩掛けできる取り付け用ピンなどを装備し、プロ奏者に多いキーボードとの併用にも対応できる。
 想定価格は税込み3万円前後と通常より1割ほど高いが、6月6日の発売以来、50周年記念販売時の10倍に上る注文数を記録する。購入年齢層は広がり、小学校で愛用した20~40代が「昔よりおしゃれになった」と購入する例や、孫の演奏姿を見て新たな楽器として手に取る50代以上がいるという。コロナ禍で初挑戦する大人が増えた現状を捉え、無料のオンラインセミナーも8月25日に開催する。
 営業管理推進部長の多田和修執行役員は「手軽さや他楽器との相性の良さに加え、格好良さも追求して成長を続けたい」と話す。
 〈2021.07.09 あなたの静岡新聞 ※肩書、表記などはいずれも当時〉

創業者の故鈴木萬司さん 1961年に国内で初めて製造

 教育楽器などを手掛ける鈴木楽器製作所(浜松市中区)が、コロナ禍で需要が高まったハーモニカの普及活動を強化している。専用楽譜本を発売し、無料オンライン講座を続けるなど入門者にも魅力を積極発信する。教育楽器普及に人生をささげた創業者が8月(※2020年8月)に他界し、会社としての変動期を迎える中、10月中旬には完成した新社屋で業務をスタートし、新たな一歩を踏み出す。

教育楽器の普及に人生をささげた故鈴木萬司氏
教育楽器の普及に人生をささげた故鈴木萬司氏
 創業者の故鈴木萬司会長=享年(97)=が1961年に製造した国内初とされる鍵盤ハーモニカ「メロディオン」とともに、ハーモニカ製造に力を注ぐ同社。コロナ禍の巣ごもり加速から、自宅内で1人でも小音量で楽しめ、手頃な価格帯も魅力のハーモニカに挑む子どもや40~50代が急増した。販売も1・5倍近くに増え、童謡や唱歌、ジャズ、国内外ポップスなど計45曲を掲載したクロマチックハーモニカの楽譜本を今月2日に発売した。
 編著は元社員の山口牧さんで、通常の五線譜に加えてハーモニカ特有の「穴番号」を記し、初心者の練習に最適な一冊に仕上げた。2年間で累計6千部が売れた第1弾「ブルースハーモニカ」を超える売り上げを目指す。
 一方、同社が7月から続けるハーモニカやメロディオンのオンラインセミナーの参加者は毎回定員を超え、新楽譜本の発売記念も10日に開く。遠隔演奏の姿や奏でた音は自分以外に届かないように設定するなど、自由な形で気軽に参加できる配慮が人気の秘けつだ。
 ハーモニカの人気再燃に、企画課の坂本佐智子課長代理は「創業者も喜んでいるはず」と想像しながら、現本社の隣接地に建てた新社屋で社員が元気に働く姿を「ひと目見てほしかった」と話す。
 例年であれば、本社前の工場には9~11月を中心に年間3千人ほどの児童が見学に訪れるが、今年は受け入れていない。「静かな秋」を迎えた社員や職人たちが、教育楽器のさらなる普及に向け、今日も知恵を絞る。
 〈2020.10.07 あなたの静岡新聞 ※肩書、表記などはいずれも当時〉