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経済界 県と国の狭間で思惑交差【集票の行方 静岡県知事選㊦】

 静岡県知事選告示から3日目の5日夜。浜松市のJR浜松駅近くで街頭演説を終えた現職の川勝平太氏(72)は、市内のホテルの一室でテーブルを挟んで、スズキの鈴木修会長(91)と向き合っていた。約1時間半の面会中、再三「支援を」と求めた川勝氏に対し、鈴木会長は1週間前の5月30日にくしくも同じ部屋で新人の岩井茂樹氏(53)=自民推薦=にも告げた一言を放った。「今回は中立だ」

両候補の出陣式にそれぞれ、静岡商工会議所の現会頭と前会頭が出席。県政の継続か変化か、経済界の思惑が絡み合う
両候補の出陣式にそれぞれ、静岡商工会議所の現会頭と前会頭が出席。県政の継続か変化か、経済界の思惑が絡み合う

 鈴木会長はこれまで川勝氏を一貫して支援してきた経緯がある。政財界に強い影響力を持つとされる鈴木会長の態度は告示前から、特に県西部の企業関係者に伝わり、「どちらの支援にも動きにくい」と困惑が広がる。告示の3日に両候補がそれぞれJR浜松駅前で行った街頭演説会に、市内の主要企業トップは顔を見せなかった。
 岩井陣営はその後、党本部の大物議員を続々県内入りさせ攻勢を強めているが、自民を長年支持する県西部の大手企業トップは「企業の動きはまだ鈍い。(党推薦候補が出馬した)12年前より熱量が低い」と指摘する。
 静岡市では、岩井氏の出陣式に静岡商工会議所会頭の酒井公夫静岡鉄道会長(66)、川勝氏の出陣式に前会頭の後藤康雄はごろもフーズ会長(72)がそれぞれ出席し、新旧会頭がたもとを分かった。後藤氏は過去に川勝氏支援の経済人組織の代表を務め、現職に最も近い経済人の一人とされる。これに対し、酒井氏は出陣式でマイクを握り、“政権交代”を訴えた。同商議所役員の市内の社長は「こんなことは今までにない」と目を丸くするが、別の市内経済人は「どちらの候補が当選しても、経済界として一定の影響力を行使できるとも言える」と冷静に計算する。
 業界団体も支援に濃淡がある。県内JAグループは政治団体の県農政対策協議会として岩井氏を推薦したものの、リニア中央新幹線工事の対応を巡って掛川市、大井川の2組織は推薦しない判断を決めた。県内JA幹部は一枚岩になりきれない状況にもどかしさを募らせる。
 選挙戦は中盤のただ中、態度を決めかねている経営者は少なくない。秋までには衆院選も予定される。県内財界の大物の一人は「経済活性化に向けて、現職知事との関係も大事にしてきたし、政権を担う自民党にも関わってきた」と双方への配慮を隠さない。「勝った方からはしっぺ返しが来るだろう。それも過去よりも大きく」。ある経営者は苦渋の表情で天を仰いだ。

 

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