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社説(2月19日)性犯罪8項目例示 要綱改正の狙い周知を

 「魂の殺人」と呼ばれる性犯罪の処罰要件について、刑法の性犯罪規定の在り方を検討してきた法相の諮問機関・法制審議会部会は改正要綱案をまとめた。強制性交罪などが成立する要件として、これまでの暴行・脅迫に加え、恐怖・驚愕[きょうがく]や虐待、上司・部下といった経済・社会的関係、アルコール・薬物の摂取など計8項目の行為を例示した。
 例示の拡充により、埋もれた性犯罪被害を掘り起こし、違法行為を適切に処罰できるようにした。現行規定は、暴行・脅迫の立証で著しく抵抗困難な程度を要件としているため「無罪判決の要因」とされてきた。処罰範囲がより明確になるとみられ、被害者団体は改正を一定程度評価している。
 「性交同意年齢」を13歳から16歳に引き上げ、16歳未満への性行為は罰する。性的部位や下着を盗撮する罪を新設する。政府は今国会への改正案提出を目指しており、要綱改正の狙いを国民に周知する必要がある。
 静岡県内では、浜松市が犯罪被害者支援金の対象に殺人や重傷傷害事件に加え、性犯罪被害を加えた。性犯罪は重大犯罪との判断に基づく。こうした認識を全自治体に広め、警察と連携した性犯罪の抑止と摘発、被害者支援の活動につなげたい。
 改正要綱の当初案は被害者を「拒絶困難」な状態にした場合を処罰対象とした。これに被害者団体が「拒絶義務を課されるのでは」と指摘し、「同意しない意思」の表明などを困難にさせた状態であっても犯罪が成立すると改めた。刑事法の専門家は、裁判での着眼点が「被害者の拒絶ではなく、加害者が同意を得たかどうかに向き、犯罪と認められやすくなる」と期待した。同意のない性行為を許さない社会に向けた重要な一歩だ。
 一方、弁護士らの中に、被害者の内心がより重視されることで「処罰されてはいけない事案」まで罰されることを危ぶむ声がある。例えば成人同士の合意による行為が、後に不仲になった際に一方的な訴えで冤罪[えんざい]を生じさせる懸念だ。協議の結果、「同意」のない性交を罰する「不同意性交罪」の創設は見送られた。厳格な処罰に向け、法の運用を適正化する議論をさらに深めるべきだ。
 昨年、全国の警察が認知した強制性交等は前年比19・3%増の1656件、強制わいせつは9・9%増の4708件だった。自治体による相談窓口の拡充や、犯罪の端緒を見定める医療機関の協力を含め、性犯罪を社会問題として考える機運を一層、高めなければならない。

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