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熱海市・錦ケ浦周辺 アートの拠点「NEWアカオ」 営業終了のホテル 芸術家が滞在、制作【わたしの街から】

 観光地熱海のランドマークとして、市民のみならず全国のファンに愛された「ホテルニューアカオ」(熱海市熱海)が昨年11月、ホテルとしての営業を終了した。だが、景勝地「錦ケ浦」にたたずむ建物は今も強烈なインパクトを放ち、まちの魅力を発信する拠点として注目されている。

メインダイニングに展示された小松千倫さんの作品
メインダイニングに展示された小松千倫さんの作品


 新型コロナウイルス禍で、全国の観光地が岐路に立たされている中、アカオ・スパ&リゾートと東方文化支援財団は昨年3月、ニューアカオを拠点に熱海の魅力をアートで再発見する「プロジェクト・アタミ」を始めた。
 目玉の一つが、1年間に20組の芸術家がニューアカオに1~2カ月間滞在して制作活動に打ち込む「アカオ・アート・レジデンス」だ。昭和の香りが漂う館内をはじめ周辺の自然、中心街などから着想した作品は絵画、映像、建築、パフォーマンスと多岐にわたる。
photo01 ロビーに展示された高村佳典さんの作品(Photo by kabo)
 5月から滞在している大村高広さん(30)は、建築をテーマにした芸術集団「グループ」の1人。空き家が多い熱海の課題に着目し「都市空間を再利用する原型を提示したい」と語る。「まだ構想段階だが、アカオの中に別のホテルを作ってみたい」とも明かす。
photo01 ダンスホールに展示された保良雄さんの作品
 自然環境を生かした立体作品やパフォーマンスなどが得意な森山泰地さん(33)は「自分の足で作品になる場所を探しながら、熱海を楽しみたい」と、海岸を眺めながらイメージを膨らませた。
 7月9、10の両日には、滞在中の芸術家が作品の制作過程などを披露するイベントが予定されている。往年の熱海ファンはもちろん、市民も気付かなかった熱海の魅力を芸術家がどう表現するか期待が高まる。
 

73年開業の老舗


 1973年に開業し、施設の老朽化などを理由に2021年11月に営業を終了した。鉄筋20階建て、客室250室。昭和、平成と団体旅行の定番宿として人気を博した。かつては館内八つの宴会場が連日埋まるほどの盛況ぶりで、熱海を象徴するホテルとして君臨した。
photo01 ホテルニューアカオ photo01
 現在は芸術の発信拠点として活用されている。通常は閉鎖しているが、イベント時に開放される。人気アーティストのミュージックビデオのロケ地にもなっていてファンの間で“聖地”になっている。
 

大地の迫力間近に 錦ケ浦


photo01 熱海を代表する景勝地の「錦ケ浦」
 伊豆半島ジオパークのジオサイトの一つ。約30万年前まで噴火を繰り返した多賀火山の一部。波の浸食で山体が削られ、切り立った海岸地形に様変わりした。朝日に照らされた断崖が五色に輝いたことから、京都の「錦織」になぞらえて先人が名付けたと伝わる。 photo01 錦ケ浦の岩肌を間近で楽しむ観光客
 カヌーやスタンドアップパドルで洞窟を巡ったり、シュノーケリングで魚を観察したりと、大自然を間近で楽しめるレジャースポットとしても人気を集めている。
 

街全体が会場 秋に作品展


 「プロジェクト・アタミ」のもう一つの目玉が、秋に開かれる「アタミ・アート・グラント」だ。熱海全体を会場に、30組の新進気鋭の芸術家が思い思いの作品を展示する。 photo01 海岸の石や流木を使ったBIENさんの作品
 昨年はホテルニューアカオをはじめ、観光庭園「アカオ・フォレスト」、飲食店、旅館など計22カ所が会場になった。ニューアカオだけでも約1カ月の開催期間中に約5万人が訪れたという。
 海水浴や花火大会がない時期にも芸術を目当てに多くの観光客が訪れ、市民も観光地としての新たな可能性に手応えをつかんだ。市民が作品を巡るツアーを提案したり、展示場所の提供を申し出たりと、アートを活用する機運は徐々に高まっているという。アカオ社のアートプロジェクトリーダー伊藤悠さんは「昨年生まれたアートの波を、今年は渦にしたい」と意気込む。

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