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「選挙のプロ」が後ろ盾 元浜松市長の鈴木康友静岡県知事誕生 地元紙記者が2024年の政治を振り返る(中)

川勝平太前静岡県知事の突然の辞職を受け、2024年5月26日の知事選には県政史上最多の6人が出馬。元浜松市長の鈴木康友氏が初当選した。元副知事の大村慎一氏は自民党の推薦を受けて選挙戦終盤に猛追するも7万票差で次点に留まった。鈴木氏の勝因には「選挙のプロ」と呼ばれる有力者の後ろ盾もあった。一方、大村氏の敗因には、元自民党衆議院議員の宮沢博行氏の辞職や塩谷立氏の離党も影響した。

静岡新聞編集局ニュースセンターの市川雄一専任部長と宮嶋尚顕政治部長が2024年の静岡県内の政治を振り返る、全3回シリーズの2回目。

史上最多6人の争い 川勝氏は再出馬せず

市川: 川勝平太前知事が辞めて、当初は川勝さんがまた出馬するんじゃないかという話があったり、渡辺周さんに後継指名したんじゃないかという話があったりしたが、結果として川勝さんは再出馬せず、兵庫県知事選のようなことにはならなかった。

その静岡県知事選で、元浜松市長の鈴木康友さんが出馬した。鈴木康友さんと、自民党が担いだ元総務省官僚で元静岡県副知事の大村慎一さんの一騎打ちのように言われているが、実は史上最多の候補者6人が出馬した。結果、鈴木康友知事が初当選した。

康友さんは72万8500票を獲得し、次点だった大村慎一さんは65万1000票と、およそ7万票差で負けた。
宮嶋さんはこの結果をどう受け止めた?

初めから康友氏有利 自民党は3区8区が「空っぽ」

宮嶋: 順当とまでは言わないが、川勝さんが辞めて間もなくの頃は、康友さんの方がだいぶ有利だと思っていたので、康友さんが勝つ可能性が高いとは当初から思っていた。どちらかというと、大村さんが非常に大健闘した結果だと感じている。

大村さんはその前から知事選に出ようと動いていたが、あくまでまだ川勝さんが在任中。本来2025年7月の知事の任期満了による知事選に向けて大村さんは準備をしていたわけで、それが突然、知事選が前倒しになった。

川勝さんは6月議会をもって辞めると言ったがさらに前倒しになり、5月の選挙になった。選挙までもう1ヶ月くらいしかない中で、大村さんはまだ何も態勢が整っていない中での始動だった。

自民党が推薦するまでは、一部の県職員OBや、高校の同級生たちが手弁当で大村さんを担いでいた。一部の経済界の有名な人たちも応援についていたが、選挙のやり方を分かっているわけではないので、はっきり言って厳しいなと。各報道陣も皆抱いていた印象だと思う。

一方で康友さんには、スズキの鈴木修さんをはじめ、選挙でいえばとにかくプロみたいな人々がついていた。

「大人と子供」とまでは言わないまでも、態勢は完全に康友さんの方が出来上がっていて、しかも連合もつくという話で。
そういう意味では、初めから康友さんが圧倒的に有利だった。

大村さんは演説にも慣れていなかったので厳しい印象だったが、自民党が途中から推薦し応援するようになり、組織的な選挙になったし、大村さん自身も演説が上手になって、だんだんだんだん、これはいい戦いになっていくのかなという雰囲気になった。

結果として開票結果は、静岡県中部から東部の全市町で大村さんの方が多く票を取った。
康友さんは浜松市など県西部では全市町で票を取った。地域対決のような形になった。

浜松市では康友さんは23万票、大村さんは8万9000票ほど。14万票くらいの差がついた。さっき市川さんが言ったように、県全体では7万7000票差だったが、浜松市だけで14万票も開いているので、結局浜松市のその差が大きく影響したといえる。

背景を付け加えると、自民党は当時から裏金問題などを抱えていた。肝心の選挙区でいうと、静岡3区や8区という西部の選挙区で当時から自民党議員がいなかった。8区は塩谷立さんが離党してという話だったが、3区は宮沢博行さんという当時の自民党議員が女性問題、パパ活をやらかした。

自民党が動かなければならない3区と8区という肝心の西部の選挙区が空っぽになってしまった。それらも結果的に(康友さんに)非常に差をつけられる要因になったと思う。

市川: 地図にすると分かりやすくて、県中東部と西部の選挙結果があれだけくっきりと分かれた知事選はおそらく初めてだったのではないかというぐらい、地域ではっきりと分かれた。これは分断が起きたのではないかと、当時選挙の分析でもいわれていたが、今となれば杞憂に終わったといえなくもない。康友知事の性格的なものもあるだろうが、地域分断が尾を引いている感じはない。

宮嶋: それはやはり康友さんもかなり意識的に、最初に首長さんたちに会いに行ったのも、東部の方、伊豆の方から会いに行くなど、非常に気を使っているし、自民党、県議会に対しても、選挙中は対決したが、その後は歩み寄ってうまくやろうというのは、お互いの共通認識としてもある程度ある。そうしたところは非常に修正していると思う。

市川: ただ、知事選では東部への大学医学部誘致や東部に専門の副知事を置くという公約を掲げて選挙に勝ったが、実現できていない。康友さんがこれから試されるところだと思う。

宮嶋: 副知事については9月議会で一度人事案を提案したが、県議会の反発を受けて取り下げた経過がある。この12月の県議会定例会でもまだ出せていない。
歩み寄るという状況ではありつつも、まだ完全な地ならしができたとは言えない段階。

知事戦でのSNS 「旋風」は起きず

市川: 知事選でもう一つ触れておきたいのは、SNSによる選挙運動。先の兵庫県知事選は、SNSによる選挙運動が結果を決めたともいわれている。振り返ると7月の東京都知事選で石丸伸二さんが2位に急浮上した「石丸旋風」、その後の衆院選で国民民主党が躍進したのも、SNSの影響が大きかったのではないかといわれている。

静岡県知事選では、大村慎一さんのSNSでの発信はよく見た。鈴木康友さんと大村慎一さんを比べると、大村さんの方が、おそらくSNSを活用して選挙運動をしていた。

さらに言うと、兵庫県知事選のNHK党の立花孝志さんのやり方が象徴的だが、SNSは本人だけではなく外野の人たちが、実はこんな裏があるんだよと話をして、それがどんどん炎上して拡散していく傾向がある。

静岡県知事選でも、その芽が少しあって、それが先ほど言った鈴木修さんと康友さんの関係を過度に強調するようなYouTubeを一部ジャーナリストが上げるなどしていた。ただそれが、結果を大きく左右することはなかった。
静岡県ではSNS旋風は起きなかったのではないか。この辺はどう分析している?

宮嶋: 分からないことが多いが、大村さんは娘さんがSNSの担当で、SNSを、大村さんの真面目そうな人柄を柔らかく紹介するツールとして捉えていた。大村さん自身は、例えば企業のスズキと鈴木康友さんの結びつきを強調して康友さんに悪いイメージをつけようというような戦略的な発想でSNSを使っていなかった。実際そのような流れにもならなかった。

スズキの鈴木修さんと康友さんの関係など、全県的な関心事でもなかった。西の方の話でしょと。うねりのようにはならなかった。

結局SNSは強力なツールだが、真偽不明な情報も含めて飛び交う。それがどんどん既成事実化していく。兵庫県ではそうして斎藤元彦知事の再選につながっていく流れになったわけだが、静岡県でも手法として同様の流れになりかねなかったのではという危機感もある。今回は、SNSがそこまで脅威にならなくてよかったという思いが正直ある。

市川: 静岡県ではおそらくSNSによる選挙運動によって誰かが勝った実績はおそらくないと思う。ただこれから、例えば2025年は静岡市議選を皮切りに各市長選や参院選もある。各候補者が、SNS上でどのような選挙運動をしていくかは、注視していく必要がある。

(2024年12月7日にYouTubeチャンネル「SBSnews6」で配信した「フジヤマ6 静岡新聞記者のここだけの話 政治を総括2024 #2」を基に再編集しました )

公式YouTubeチャンネル「SBSnews6」で2024年11月から配信中のWEB専門番組です。静岡のスゴイ人や場所などを紹介するほか、気になるニュースを深掘りします 。これを見れば、静岡をもっと好きになる!地上波とはちょっと違った新番組にご期待下さい。

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