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側近も記者も想定外だった 川勝平太前静岡県知事が突然辞職表明 地元紙記者が2024年の政治を振り返る(上)

「野菜を売ったり牛の世話をしたりとか、ものを作ったりとかということと違って、基本的に皆さま方は頭脳、知性の高い人たち」。2024年4月1日、川勝平太前静岡県知事は県の新規採用職員への訓示で失言し、2日に突然辞職を表明した。側近も記者も予想しない事態だった。かねてから失言を繰り返していた川勝前知事は、なぜそのタイミングで辞職を決断したのか。

静岡新聞編集局ニュースセンターの市川雄一専任部長と宮嶋尚顕政治部長が2024年の静岡県内の政治を振り返る、全3回シリーズの1回目。

15年ぶりの知事交代

市川: 2024年の政治といえば、自民党派閥の裏金問題や石破首相の誕生、与党が過半数割れした衆院選が話題だが、静岡県ではやはり15年ぶりの知事交代が最大のニュースだった。

その知事選のきっかけになったのが、川勝平太前知事の、突然の辞意表明からの辞任。宮嶋さんは川勝さんの辞任を予想していた?

宮嶋: 全く予想していなかった。

簡単に振り返ると、2024年4月1日、川勝さんは新規採用職員への訓示で、「県庁はシンクタンクだ。野菜を売ったり牛の世話をしたり、物を作ったりとかと違い、基本的に皆さま方は頭脳知性の高い人たち」などと述べて一部のメディアで報道され、職業差別だと批判が殺到した。

これを受けて翌日4月2日の夕方に、この発言に対する釈明の報道対応があった。釈明するだけかと思いきや、6月議会をもって職を辞しますと、突然表明した。

そもそも私は4月1日から政治部長になったばかり。3年ぶりに本社の政治部に戻り、4月1日午前中に川勝さんのところへ行き、挨拶をしたばかり。その日の午後に川勝さんがこの発言をして、2日に一部の新聞で報道があり、夕方に川勝さんの報道対応があると。

そこまでは想定していたが、2日夕方、3日付の朝刊会議が終わった頃に現場から電話があり、記者が「川勝さん、辞めると言ってる」と。朝刊の展開が全く変わるので、我々ももう1度集まってバタバタした記憶がある。とにかく全く想定外だった。

県庁の人たちも同じ。特に川勝さんの側近ともいえる幹部職員たちの中に、帰宅したところに「川勝さんが辞めると言ってます」と県職員から電話があり、急いで県庁に戻ったという人もいた。誰も予想していなかったと思う。

過去にも数々の「差別」発言

市川: 川勝さんは今回、失言をきっかけに辞任することになったが、川勝さんの失言はこれまでもいろいろあった。

2021年には「コシヒカリ発言」があり、当時僕は県政の取材をしていた。コシヒカリ発言は地域差別の発言で、それ以外にも菅元総理に対する学歴差別発言や女性差別、容姿差別発言。本人は否定しているが、差別と捉えられてもおかしくないような発言を繰り返していた。

辞任のきっかけになったのは、2024年4月1日の新規採用職員に対する22分間の訓示の中の、本当に一つの言葉だったが、訓示の全文を読んでも、今までの発言の中で一番酷いなと。これは(川勝知事は)もたないのではないかと思った。するとやはり辞意表明となった。

宮嶋: 市川さんが担当する前に僕も県政の取材を担当していて、そのときもいろいろな発言があった。

川勝さんをいつの時代に担当しても、「こんな発言があった頃」と発言で当時を振り返るぐらいに、川勝さんはあちこち、いろいろな場面でいろいろな発言をしている。

僕のときは「ヤクザゴロツキ発言」があった。県議会会派の予算要望のときに、自民党会派を念頭に「ヤクザの集団、ゴロツキがいる」といった話をした。その取材の場にはうち(静岡新聞)しかいなかった。川勝さんの肝いりの施策に対しても「これに反対する人は議員の資格がない」とも発言したのを記事に書いたら、そのときも大騒ぎになった。

ただ、うちしかその場にいなかったので、記者会見でその発言についてただしたら、「言った覚えがない」「そこだけ取り上げて、全体の脈絡と違う」と言い始めたので、会見の場で言い合いになった。「当時の(録音していた)音声を、もう1回流しますけど」と、そんなやり取りをしたのが今となっては懐かしい。

そうした経過もあった中で今回の発言の話に戻ると、川勝さんを弁護するわけではないが、この(訓示での)発言だけを取ると、確かに職業差別として捉えられかねない発言だった一方で、本人は絶対に差別の意識はなかったと確信をもって言える。

なぜなら川勝さんは、農業などをはじめとする「実学」というものを尊重した発言をずっとしてきたし、農産物に関しても「農芸品」だと、リスペクトした言い方をしていた。(訓示での発言は)問題発言であることは間違いないが、僕らも現場の記者らも川勝さんの本意ではなかったと受け止めた。

もともと日常的にさまざまな物議を醸す発言をしているので、こちらも耐性ができて、一つ一つの発言にそれほど敏感に反応しなくなってしまう。現場は多分そうだったと思う。現にこのときの(訓示での)発言も、ごく一部の報道で。他のメディアは、次の日の新聞にもテレビにも出ていなかった。

「逆ギレ辞任」ボディーブローは2年前の辞職勧告決議

市川: 発言の翌日4月2日に報道したのは読売新聞だけだった。読売新聞が県版に、それほど大きくはない囲み記事を出し、その報道をきっかけにテレビも報道するようになって、ネットメディア、SNSを含めて大炎上した。

1日に発言があり、2日の朝刊で読売が報じて、2日夕方の囲み取材で辞任を表明したが、そのとき「県に抗議の電話が殺到してますよ?」と問われたときに、川勝さんが「読売新聞のせいだと思っています」と発言した。そのときはかなりマスコミを批判した。

いわゆる「切り取り報道」が今社会的に問題になっているが、そうした発言が出るほど、川勝さんはおそらく2日の時点では、“それほど自分は悪いことをしていないが、メディアがここまで言うなら僕が悪いんでしょう”、辞めますと。

僕は当時出演したラジオ番組で「逆ギレ辞任」と命名した。それくらい酷い辞任だと思った。

このとき、もう一つポイントだったのは、今兵庫県でも話題の知事不信任決議案。

静岡県では2023年、1票足りずに否決された。それは先ほどの「コシヒカリ発言」をきっかけに、川勝さんがボーナスと給料を返上するという話をしたにも関わらず、1年7ヶ月経ったときにも、ボーナスを返上していなかった。NHKが報道し、また(ネット上で)大炎上して、それをきっかけに県議会自民党会派が中心となって知事不信任決議案を提出して、1票足りずに否決されたということがあった。

そのさらに前の2021年、「コシヒカリ発言」をした当時は、県議会が辞職勧告決議案を出した。不信任決議案は出席議員が3分の2以上で、出席議員の4分の3以上の賛成で可決されるというハードルの高い議案。一方、辞職勧告決議案は過半数の賛成で可決される。

当時、県議会を取材すると、否決されてもいいから不信任決議案を出すべきだという派と、いや否決されるなら意味がないので可決される辞職勧告決議案を出すべきだという意見があった。
ただ、辞職勧告決議案は法的拘束力がなく、県議会が辞職を突きつけているという事実しか残らない。議会内で意見が割れて、最終的には県議会最大会派の自民改革会議(自民党会派)は辞職勧告決議案を可決する選択をしたという経緯があった。

今回、川勝さんが2024年に辞めるときに「県議会から辞職を突きつけられている身分だから」ともおっしゃった。これは2023年の不信任決議案のことではない。2021年に辞職勧告決議を可決されたことが、ボディーブローのように川勝さんに効いていた。

さらに言うと、2023年の不信任決議案が可決された後の知事定例記者会見で、川勝さんが「次に問題発言があったら辞めます」と明言した。
今回の辞任については、その二つがボディブローとなって効いたというのが僕の考えだ。

宮嶋: 川勝さんは会見で、リニア問題に決着がついたことを辞める建前にしていた。

ある県職員によると、JR東海がリニア開業時期を「2027年以降」に変更させたのは自分(川勝さん)が主張を通した結果であり、区切りがついたからもういつ辞めてもいいという気持ちが、(4月2日の時点で)すでにあったのではないかと。

市川: 川勝さんが辞意を表明した翌々日の4月4日から、静岡新聞が連載「衝撃 知事辞意表明」を3回掲載した。リニア問題に触れた3回目の冒頭は「みなさん、見ましたか。私たちの勝ちです」という川勝さんの発言で始まる。「勝ちです」とは、JR東海が27年のリニア開業は無理だと言ったことに対して、「私たちは勝った」んだと。

ただ、この連載にも書いてあるが、開業延期は本来の「勝ち」ではない。静岡県が求めていたのは、大井川の水問題の解決であり、リニア開業を遅らせることではなかった。それなのに、目的が「リニア工事の環境への影響の最小化」ではなく、「開業を遅らせること」になってしまっていたのではないかと、幹部職員の見方を紹介した。この辺りは象徴的な話だったと思う。

川勝さんは4月2日の囲み取材では、マスコミ批判を繰り広げて辞めると言い、その後の正式な会見の場では、リニア問題にひと区切りがついたから辞めると言ったが、後者はやはり後付けだったと思う。

(2024年12月6日にYouTubeチャンネル「SBSnews6」で配信した「フジヤマ6 静岡新聞記者のここだけの話 政治を総括2024 #1」を基に再編集しました )

公式YouTubeチャンネル「SBSnews6」で2024年11月から配信中のWEB専門番組です。静岡のスゴイ人や場所などを紹介するほか、気になるニュースを深掘りします 。これを見れば、静岡をもっと好きになる!地上波とはちょっと違った新番組にご期待下さい。

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