
サッカージャーナリスト河治良幸
J1昇格プレーオフ準決勝、清水に挑んでくるモンテディオ山形とは!?

清水は9月のホーム山形戦を3−0で勝利した=アイスタ日本平
山形の合言葉「5連勝の続き」
J2のレギュラーシーズンを4位で終えた清水エスパルスはプレーオフの準決勝で、5位のモンテディオ山形と対戦する。会場はアイスタ、しかも90分の引き分け以上で昇格をかけた決勝に進めるが、山形が油断ならない相手であることは間違いない。今シーズンの直接対決は1勝1敗。9月9日のホームゲームは3-0の勝利を飾ったが、相手は5連勝でプレーオフに滑り込んだ勢いがある。「5連勝の続き」は山形がプレーオフに臨む上で合言葉になっているようだ。10月8日の栃木SC戦から逆転でプレーオフを決めた最終節のヴァンフォーレ甲府戦まで、一戦必勝でやってきた。それをプレーオフで、何を今さら変える必要があるのか。山形からすればアウエー、しかも勝たなければ先に行けないというシチュエーションは、シンプルに勝つことに集中できる前向きなシチュエーションでもあるのだ。
山形は昨シーズンは6位で、J1参入プレーオフに進出した。前回は最終的に、J1の16位に勝たなければ昇格できないレギュレーションだった。山形はまず3位のファジアーノ岡山にアウエーで3−0の勝利をあげ、2回戦では4位のロアッソ熊本を相手に2−2と引き分けたが、年間順位で上回る熊本が勝ち上がり、山形は敗退となった。
当時コーチだった渡邉晋監督にとっても、昨シーズンから残る選手たちにとっても今回のプレーオフはリベンジの場にもなる。しかも、アウエーの1回戦で岡山に勝利した経験は今回のアイスタでも彼らの強みになりそうだ。
山形・渡邉監督が強調するのは…
渡邉監督はベガルタ仙台で、2014年から2019年まで6シーズン戦った。その後はJ2のレノファ山口でも指揮を取り、山形で現FC東京のピーター・クラモフスキー監督をコーチとして支え、今年4月から指揮を引き継いで現在にいたる。組織的な守備構築に定評があるが、ボールを動かしながら位置的優位を取りながら、フィニッシュまで攻め切るスタンスを継続している。シーズンオフには欧州を訪れるなど、常に海外サッカーの戦術トレンドに目を向けながら”渡邉晋流”をアップデートしてきた気鋭の監督だ。一方でメンタルの重要性を強調するタイプでもある。清水戦に向けて指揮官が強調しているのは「試合で100%以上のものが出ることはない。それ以上を出したいなら、その前のトレーニングから高めて、試合では100%を出すことに集中しよう」ということだ。
試合では100%を出すことだけに集中すればいい。アウエーまで駆けつけるサポーターが100を101、102にしてくれる。おそらくアイスタの大半は清水サポーターで埋め尽くされて、歓声の総量では圧倒されるかもしれない。それでも一人ひとりの情熱を力に変えて、清水という強大な敵を倒すという姿勢で挑んでくるはずだ。
清水は宮城天のミドルを警戒せよ

清水に対してボールの奪いどころや気をつけるポイントは押さえているはずだが、おそらくシステムは甲府戦と同じ4−2−1−3だろう。その形自体は5連勝の期間より前から変わっていない。中盤で攻守を司るのはテクニシャンの高江麗央と山形在籍7年目の経験豊富な南秀仁だ。
清水としてはここからのボールの出どころを封じる必要がある。そしてトップ下に君臨する後藤優介が危険な選手であることは、清水のサポーターに今さら説明する必要もない。3トップには6得点5アシストのイサカ・ゼイン、シーズン10得点の藤本佳希、創造力の高い宮城天が並ぶ。
その中でも要注意は宮城天だ。川崎フロンターレからV・ファーレン長崎に期限付き移籍していた宮城だが、7月に山形へ再び期限付き移籍で加入すると、渡邉監督の信頼を掴んで左ウイングに定着した。あまり活動量の多いタイプではないが、良い形でボールを受けると鋭いドリブルからシュートに持ち込んでくる。特にカットインから放つミドルシュートは脅威だ。
タレント力は清水が上
山形が厄介なのはベンチに破壊力のあるアタッカーを揃えていること。10番を背負うMFチアゴ・アウベスはシーズン13得点。スタメン起用される可能性もあるが、ディフェンス陣が疲れてきた時間帯に投入されると本当に怖い存在になりうる。また9番のFWデラトーレは直近2試合で試合の終盤にゴールを決めており、甲府戦では後半アディショナルタイムの勝ち越しゴールで、山形をプレーオフに導いた。清水としては引き分けでも勝ち進めるアドバンテージはあるが、キックオフの時点でそうしたことは考えず、なるべく早い時間帯にリードを奪って、ゲームコントロールできる流れに持っていきたい。総合的なタレント力は清水が上回るだけに、それをしっかりと発揮して、山形の100あるいは101、102を上回れるか。メンタル面で負けないことプラス、後半にギアを入れてくる山形に対して、全体の意識がバラバラにならないようにゲームを進めていくべきだろう。
<河治良幸>
タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。 サッカー専門新聞「エル・ゴラッソ」の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。著書は「ジャイアントキリングはキセキじゃない」(東邦出版)「勝負のスイッチ」(白夜書房)「解説者のコトバを聴けば サッカーの観かたが解る」(内外出版社)など



タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。サッカー専門新聞「エル・ゴラッソ」の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。世界中を飛び回り、プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。