藤枝明誠のMF村山晴人「出られないみんなの分まで」 開幕直前メンバー入り
先制しながら追いつかれ、突入した延長戦も残り5分を切っていた。PK戦かー。藤枝明誠ベンチのそんな重たい空気を一掃したのは、後半途中からピッチに立ったMF村山晴人(碧FC出身)。開幕直前にセカンドチームから滑り込みでメンバー入りした点取り屋が、3年ぶりの全国行きを狙うチームを救った。
1−1で迎えた延長後半6分だった。ドリブルで中央に切れ込んできた仲間の動きに反応。ペナルティエリア内でショートパスを受け、右足でトラップした直後に左足シュートを放った。「リズムよく打てた」
ネットが揺れたのを確認すると、村山が真っ先に向かったのは大応援団が待つスタンド。試合後、報道陣に囲まれたヒーローは感極まった。
「出場できない選手たちの分まで、やろうと思っていた。自分はずっとスタンド側にいたから、みんなの気持ちが分かる。応援してくれるのがうれしくて、その人たちのためにも結果を残そうと思っていた」
ケガに苦しんだ高校生活
ケガに泣いた3年間だった。愛知県の碧FCから入学したものの、中学時代に手術した右膝のリハビリが続き、サッカーができるようになったのは1年生の10月から。周囲に追い付こうと必死に自主練習に取り組んだ。ところが「自分のプレーが戻ってきたな」と感じるようになった2年生の終わりに、今度は左膝を負傷して2カ月近く離脱。新チーム結成のタイミングで出遅れた。トップチームが再び遠のいた。
それでも「気持ちを切らすことはなかった」という。「親への感謝の思いもあるし、サッカーが好きだから」。セカンドチームで再び自主練習に励み、「いつか自分も」と、“その日”が来るのを待っていた。
この日の活躍に目を細めたのは松本監督だ。「辛抱強くリハビリして、セカンドチームでもコツコツ結果を残していた。しっかり評価してあげるべきだし、チャンスを与えるべきだと思った」
トップチームのメンバーとして初めて出場した公式戦で、初ゴール。仲間の手荒い祝福を受けた村山は「国立でサッカーをするのが自分たちの目標。応援してくれる人たちの力も借りて、一丸となって戦っていきたい」と目を輝かせる。苦労をともにしてきたスタンドの仲間たちの思いを背負い、最後の最後に巡ってきたチャンスを生かすつもりだ。
〈藤枝明誠・MF村山晴人〉
「ケガでずっとつらい思いをしてきたけど、親への感謝もあるし、サッカー好きだから、気持ちは切らさなかった。県Bリーグの聖隷クリストファー戦でハットトリックして、そこでアピールできたので、トップチームに呼んでもらえたのではと思う。呼ばれた時は『みんなの分もやるしかない』と思った。背番号10は重いが、気負わずに結果を残したい。国立でサッカーするのが自分たちの目標なので、応援してくれる人たちの力も借りて、一丸となって戦っていきたい」
〈藤枝明誠・松本安司監督〉
「チームとしては初戦で緊張していたせいか、雑になってしまった。蹴ってしまうと、リズムが出ず、バタバタしてしまう。自分たちで苦しくしてしまったが、苦しみながらも勝ったことは良かった。
(決勝点の)村山はもともと能力の高い選手。ボール扱いがうまくて、サイドもフォワードも器用にできるので期待していた。ケガしている時期も辛抱強くリハビリして、“コツコツ”は藤枝明誠らしい選手だと思う。しっかり評価してあげるべきだし、チャンスを与えるべきだと思った。コンスタントに結果を出していくことが大切だが、こういう一発勝負ではラッキーボーイが必要」