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静岡県内 管理職「男性のみ」半数超、「ジェンダー平等1位」鳥取県にヒント?

 静岡県内企業で7月に行われた意識調査で、「管理職は男性のみ」が半数超えという結果となり、女性の要職起用は低水準が続いていることがわかりました。30年の種まきを経て「ジェンダー平等1位」となった鳥取県の地道な取り組みや、静岡県内の現状、誰もが働きやすい環境づくりに努める企業を紹介します。

静岡県内企業の意識調査 女性管理職8.7%に下降

 帝国データバンク静岡支店が実施した女性登用に対する静岡県内企業の意識調査によると、女性管理職の割合は平均8・7%(前年比0・6ポイント下降)にとどまり、管理職全員を男性が占める企業は51・1%(1・9ポイント上昇)と半数を超えた。政府が2020年代の目標に掲げる「女性管理職30%」の達成企業は8・8%(0・4ポイント下降)で、女性の要職起用は低水準が続く。

静岡県内企業の女性管理職割合
静岡県内企業の女性管理職割合
 企業規模別の女性管理職の平均割合は小規模14・7%、中小9・0%、大企業6・4%。業界別では農林水産の21・3%が最も高い一方、現場作業が多い建設(7・1%)、製造(6・1%)、運輸・倉庫(2・7%)はいずれも前年水準を下回った。「休まれると職場復帰まで増員できず負担が大きい」との声が中小で上がるほか、「男女にかかわらず責任の軽い業務が好まれる傾向にある」など従業員が管理職を敬遠するケースもあった。
 女性活躍への取り組み(複数回答)は性別を問わずに「成果で評価」(56・2%)、「配置・配属」(43・2%)と男女平等の環境整備が上位に並んだ。「育児・介護休業」「就業時間の柔軟化」を男女ともに推進する企業も目立つ。男性の育休取得率は平均9・5%で、小規模の事業所ほど取得が進んでいない。
 調査は7月18~31日に実施し、静岡県内772社のうち331社(42・9%)から回答を得た。
 (経済部・金野真仁)
<2023.10.6 あなたの静岡新聞>

働く女性最多 就労環境の改善進めよ(社説)

 総務省が公表した2022年の就業構造基本調査で、女性就業者は過去最多の約3035万人と初めて3千万人を超えた。就業率も53・2%で過去最高だった。

 だが、働く女性はなお過半数が非正規雇用で、フルタイムで働く人に限っても男女の賃金格差は主要国で最悪レベルだ。仕事と家庭を両立させづらい正社員の働く環境などを改善し、男女の格差解消を急がねばならない。
 会社などの役員を除く雇用者に占める非正規の割合は男性22・1%に対し、女性は53・2%と多い。この状況を生む背景に目を凝らすべきだ。
 未就学児を子育て中の人のうち就業者の割合は、男性の99・0%に対し、女性は5年前より9・2ポイント増えたものの73・4%だ。過去1年間に出産、育児のため離職した女性の数を見ても、5年前の約3分の2に減ったとはいえ14・1万人に上り、男性の0・7万人に比べ著しく多い。
 子育てとキャリアを両立させる女性が増えた一方で、これらの数字は、依然として女性が育児をより多く引き受けている現状を示している。
 残業を含め長時間労働で、異動や転勤もある正社員の仕事は、家族がいる女性にはつらい。それは同時に、男性が家事、育児に参加し、女性と負担を分かち合うのを難しくする。これが男女の役割分担を強め「男性は正社員、女性は非正規」というモデルの固定化につながっていないか。
 この状況を打破すれば、少子高齢化で人手不足の国内産業を底上げできる可能性がある。正社員の女性が増えて家計の収入が伸びれば、消費が増えて景気の好循環を呼び込めるかもしれない。
 配偶者に扶養されるパート労働者には、一定の収入を超えると社会保険料負担が必要になる「年収の壁」がある。共働きが当たり前の時代にそぐわなくなった壁を見直す議論を、着実に進めてほしい。
 働く女性の健康を守ることも忘れてはならない。健康問題で休職や離職を余儀なくされ、キャリアを積む機会を失う女性は多く、厚生労働省は女性特有の健康問題である月経困難症などについて初の実態調査に乗り出した。同省による昨年の意識調査では日常生活に支障が出る「更年期障害」の可能性があると考える女性は50代で4割、40代でも3割に上った。
 実態調査では症状に悩む人の割合を調べ、仕事への影響や生産性の変化を分析する。症状に応じた休暇やテレワークといった女性の健康に配慮した働き方を導入する企業へのヒアリングも実施し、今後、企業が取るべき対策をまとめた事例集を作成する予定だ。女性が安心して働ける職場づくりに生かしたい。
<2023.9.23 あなたの静岡新聞>

急な抜擢ではなくトレーニングの機会を 鳥取県庁、30年の地道な取り組み

 政府統計などを用いて47都道府県それぞれの男女のジェンダー平等ぶりを可視化する「都道府県版ジェンダーギャップ指数」。上智大の三浦まり教授(政治学)らが2022年から算出し、行政分野の1位は、2年連続で鳥取県だった。意外に思う人もいるかもしれない。大都市ではなく、なぜ鳥取なのか。実は、鳥取県庁のジェンダー平等の取り組みは、約30年もの歴史がある。その立役者は、改革派として知られた元知事の片山善博さんだ。

元鳥取県知事の片山善博さん=2022年12月、東京都千代田区
元鳥取県知事の片山善博さん=2022年12月、東京都千代田区
 知事になる以前の1990年代に旧自治省(現総務省)から出向し、県の総務部長を務めた。当時から「女性にお茶くみだけをさせない」と、庶務に偏っていた女性職員の配置を全面的に見直していた。さらに、ペーパーレス化などを通じて業務負担を減らし、結果的に、男女ともに働きやすい職場作りが進んだ。デジタル化の先駆けとも言える。当時の経緯を振り返った昨年12月のシンポジウムでの発言をひもとくと、示唆に富む内容に驚かされる。
 ▽「何か変」。人事で感じた違和感と「作られた能力差」
 片山さんが鳥取県の総務部長になったのは1992年。総務部長は、人事や財政など県庁の中核的な役割を担う。人事に取りかかって、すぐに気付いた。「なんか変だ」。違和感の正体はすぐに分かった。管理職が、ほぼ男性だけだったのだ。
 鳥取県に出向する直前は、国で国際交流の仕事をしていたため、ギャップは大きかった。海外の政府や自治体では、男女分け隔てなく議論しながら仕事を進めているところも多い。
 「振り返って日本の組織は、おじさんばっかり。男女共同参画が進んでいる組織の方が多様な意見が出て、活気がある」
 当時、女性職員は全体の3割を占めていたが、どの部署に配属されても、担当は庶務ばかり。一方、男性はさまざまな部署で、多様な担務を経験し、約20年掛けて、オールラウンダーになっていく。多くが課長になる40歳ごろになると、男女の経験値の差は歴然で、結果、男性ばかりが管理職を担っていた。
 「これは明らかに作られた能力差だ」。まず手を付けたのは、秘書課や財政課といった中枢部署の態勢見直しだ。特に、財政課の予算編成は、年末の寒い時期が業務のピークで、徹夜で作業することもあった。「男がやる、きつい仕事」との固定観念があった。
 そこで打ち出したのは、「徹夜や長時間労働のない財政課にする」との方針だ。冬に集中する仕事を夏にも振り分け、業務を平準化した。人手を増やし、業務のデジタル化にも努めた。その上で、職員の3割を女性にすることにした。
 例えば、河川工事や土石流対策などの公共工事の現地視察。以前は冬の予算編成のさなかに、タイトスケジュールで視察も行い、負担感が大きかった。「予算を付ける際、現地を見ておかないと、どうしても机上の空論になる」。だが、予算要求されそうなものは、夏ごろにはすでに固まっている。担当課に早めに情報共有してもらい、視察を前倒しすることにした。
 公報のペーパーレス化をきっかけに、予算編成のペーパーレス化、エクセルなどを活用した効率化も進めた。結果的に職員の残業は大きく減った。
 こうした取り組みが、どんな変化につながったのだろうか。「予算の出来栄えが良くなった。それまでは、商店の顧客の半数が女性なのに、店員が男性だけだったようなものだった。男女共同参画の視点で、県民への行政サービスを考えると良い施策ができると実感した」
 女性がお茶くみなどをしていた秘書課は、職員数を男女半々にすることから始めた。ただ、それだけではうまくいかない。知事の日程確保などで部屋を訪れる他部署の職員が、男性職員にしか物を頼まないためだ。部屋に女性しかいない時には、「また来ます」と引き返すことすらあった。
 「これではいけない」と、課員を全員女性にし、課長職をやめてフラットな組織に変更。いやがおうにも、女性職員に頼まなければいけない環境を作った。「男性の中には、『女性に頭を下げたくない』『ちゃんと仕事をしてくれるのか』などと考える人も多くいた」
 他にも、さまざまな取り組みを進めた。「男性も庶務に配属する」「人事担当が配置の偏りがないかをしっかりチェックする」。態勢を整えた上で、女性にもキャリアの門戸を開き、男女の固定的役割観念を払拭させようと努めた。「男性管理職に『女性に頼んだら、ちゃんとやってくれる』という当たり前のことを、実体験させる必要があった」
 こうした取り組みを重ねるにつれ、意欲の有無や仕事の出来は、性別ではなく個人差なのだということが徐々に浸透してきたという。
 「細かいことを、総務部長の権限でこつこつやってきた。地味すぎて、当時の知事は関心がなかったと思う。こうした取り組みのおかげで、男女ともに豊富な経験を積んだ職員が育ち、後に知事になってから、女性を管理職に登用しやすくなった」
 その後、片山さんは1994年4月に鳥取県知事に初当選。行政改革でその名を知られたが、ジェンダー平等も引き続き進めた。その一つに、鳥取県男女共同参画推進条例の制定がある。条例に基づき、審議会の委員を選ぶ際は、男女をそれぞれ最低4割入れることにした。
 当初は事務方から「女性の候補者がいません」と言われることも多かった。それでも片山さんが「じゃあ自分のつてで探してくるから良いよ」と返すと「事務方があっという間に探し出してきた」
 忘れられないことがある。定例議会の開催中、ある男性部長の第三子が生まれそうだと分かった。部長ら県庁の幹部にとって、県議会議員の質問に答える議会答弁は、大事な仕事。しかし、片山さんは部長にこう伝えた。「休んだら?議会答弁は、知事や部の次長が代わりにできるが、上の子2人の面倒はあなたしか見られない」
 その上で、議長や副議長には事前に報告しておいた。当時は、まだまだ男性が育児に積極的に関わることが一般的ではない時代だったため、否定的なことを言われるかもしれないからだ。「議会であれこれ言われて、部長を傷つけることも避けたかった」
 ただ、話を聞いた議長から返ってきたのは、こんな答えだった。「分かりました。次の議会の時に、その経験を報告して下さい」
 次の県議会。この部長が議会で体験を報告すると、地元紙の朝刊1面にカラーで大きく取り上げられた。片山さんは「県全体で、男性の育休取得への意識を前進させる大きなきっかけになったのではないか」と振り返る。
 ▽繰り返し伝えた「想像力を持って」
 片山さんが30年も前からジェンダー問題に取り組んだモチベーションは何だったのだろう。「大きく分けて2つ。ひとつは、同じような能力を持っているのに、女性というだけで力を発揮できないのは不平等との思い。公的機関である役所の中で、不平等や、不公正が起きているのは、やっぱりおかしい」「ふたつ目は、職員数に限りがある中で、重要な仕事を男性だけに任せるのは、人材活用面でもったいないということ」
 片山さんは40代で鳥取県知事に就任した。自分より年上の男性幹部も多く、中には「古いタイプ」と感じる人もいたが、彼らにはこんな風に話した。
 「皆さんの中には娘さんがいる方もいるかもしれない。娘さんが一生懸命勉強して、社会の中で役割を果たしたいと思っている。大学までは男女同権なのに、社会に出たらいきなりお茶くみなど、補助的な仕事ばかり。男性中心社会でどんな無念さを感じるだろうか。どうか想像してみて下さい。私は自分の娘をそんな目に遭わせたくない」
 それは、当時、娘が大学生だった片山さん自身の率直な思いでもあった。
 昨年12月のシンポジウムではこんな質問も投げかけられた。「どうしたら鳥取県のように状況を改善できるのか」
 片山さんは「こうした課題は、一人の力や短期間で全面解決するのはなかなか難しく、特効薬はない。鳥取の場合も、私の取り組みを後任の知事や幹部が引き継いでくれたからこそ、今がある」と話す。その上で、地道な取り組み努力の大切さを強調した。
 「大切なのは準備。男女共同参画を訴えて当選した首長が、女性を抜擢することがあるが、三段跳びのような形で昇進させるのはやめた方が良い。男性と同じようにトレーニングの機会を作るなど、地道なところから始めないといけない」
 また、本当の男女共同参画を目指すには、働き方の改善による、長時間労働の解消に加え、男性の「家庭進出」も欠かせないという。共働きの場合でも、家事や育児、地域との交流は、主に女性が担うことが多いためだ。
 「長時間労働から解放され、成果にもつながる。何より、男女で力を合わせた方が楽しく働けませんか」。組織のあり方は、トップのマインドで大きく変わった。小さな改善を長年、コツコツと積み重ねた鳥取県の取り組みから学ぶことは多い。
<2023.4.22 あなたの静岡新聞>

誰もが働きやすく 建設業のスエヒロ工業

 従業員30人の建設業スエヒロ工業(沼津市)が、性の多様性の理解促進に力を入れている。全社員向けの勉強会を開くなど、男社会とされる建設業界で性別に関係なく働きやすい環境づくりを進める。任意団体が定める評価指標で大手企業と並び高い評価を受けた。

性の多様性に関する勉強会で意見を交わす社員=6月、沼津市のスエヒロ工業本社
性の多様性に関する勉強会で意見を交わす社員=6月、沼津市のスエヒロ工業本社
「配慮足りず傷つけたかも」意見交換から気付き  さまざまなセクシャリティの人が安心して生活できる環境をつくるには―。6月上旬に開かれた勉強会。参加者はグループになり「困ったことを気軽に言える雰囲気をつくる」などと意見を交わした。トランスジェンダーの体験談を共有し、社員の一人は「思っていた以上に性は多様だと知った。配慮が足りず傷つけてしまっていたかも」と過去を振り返った。
 事業拡大に伴う人手不足解消と離職防止を目的に2019年に働き方改革を本格化。当初は女性の視点を意識し、女性が働きやすい企業として認定マーク「えるぼし」を取得。さらに優れた環境づくりを目指すには、男性・女性という意識を捨て「誰もが働きやすい」という視点が大切だと考え、一部社員が取り組みをスタートした。
LGBTQの言葉の意味から  手始めに実施した社内アンケートでLGBTQの言葉の意味を知る社員は半数に満たず、性の多様性を学ぶ雰囲気は乏しかった。社内のトレーニングジムのトイレを性に関係なく使える「誰でもトイレ」に変え、あらゆる性のパートナーも慶弔休暇の対象にするなど施設や規則を変えた。「強制するのではなく一緒に考えてもらおう」と勉強会を始めた。
 職人気質で口べたな社員が多く、普段は仕事に関する会話がほとんど。意見交換が成り立つか心配されたが、予定時間を過ぎても議論が続いた。開催を主導した大野友美取締役(41)は「お互いの本音をぶつけ合ったことで、性に限らず相手を認め合うきっかけができた」と話す。
大企業とともに「PRIDE指標」認定  桜井弘紀社長(37)は「幸せの価値観が違う社員同士が認め合うことで、それぞれの幸せにつながる」と理想を語る。22年には職場での性的マイノリティーに関する取り組みを評価する「PRIDE指標」で、清水建設や大林組といった大企業とともにシルバー認定を受けた。今後は活動の範囲を協力会社にも広げたい考えだ。

企業経営研究所(長泉町)磯辺剛彦理事長の話 コストと時間を使って性の多様性に関する社員向け勉強会まで開いている中小企業は他にない。性によって物事を見る視点や距離感が異なる。現在のように事業環境が大きく変化している時こそ多様化を進め、企業経営を複合的に考えるべきだ。性の多様化は大企業よりも経営者の意思が社内に伝わりやすい中小企業の方が進むだろう。取り組みが広がると期待している。
(東部総局・矢嶋宏行)
<2023.7.17 あなたの静岡新聞>