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感染者激減の理由は? 新型コロナのなぜ㊤【NEXT特捜隊】

本県と隣接県・大都市圏の人流推移
本県と隣接県・大都市圏の人流推移
県内のワクチン接種率と人口10万人当たり直近7日間の新規感染者数の推移
県内のワクチン接種率と人口10万人当たり直近7日間の新規感染者数の推移
本県と隣接県・大都市圏の人流推移
県内のワクチン接種率と人口10万人当たり直近7日間の新規感染者数の推移

 10月以降、新型コロナウイルスの流行が全国的に落ち着いている中、静岡新聞社NEXT特捜隊に、相次いで疑問が寄せられた。「感染者はなぜ激減したのか」「旅行など活動再開の動きがある。せっかくみんなで収束させたのに、努力が水の泡では」。静岡県に助言する新型コロナ感染症対策専門家会議の感染症専門医3人に尋ねた。2回に分けて紹介する。
 一つ目は、静岡市清水区の高橋一樹さん(68)から。「激減の理由が分からないので不気味。緊急事態宣言が出る前と後で、私も周りの人も、ほとんど行動を変えていない」と首をひねる。
 高橋さんの肌感覚は、記者も同様。まず人の動きを調べるため、携帯電話の位置情報に基づく統計を見た。すると、本県と隣接県・大都市圏の人の行き来は、まん延防止等重点措置の対象になった8月8日の直前から急減していた。宣言発出の20日の前に増加に転じたが再び減り、9月中旬まで低調に推移した。
 「感染者が増えてきた時点で、人々が気を引き締めているのは事実だと思う。意識しなくても行動減につながっているのでは」と、倉井華子医師。宣言の効果で顕著なのは、飲食店の集団感染がなくなることという。
 専門医の3人全員が感染者激減の理由として確実とみるのは、ワクチン接種率の向上。矢野邦夫医師は「第4波までと違い、第5波の後に極めてゼロに近づいたのは、ワクチンで集団免疫が高まった証し」と言い切った。
 ワクチンは重症化と死亡だけでなく、感染そのものと発症を防ぐ効果も高い。ファイザー社製は臨床試験段階で発症を95%減らすことが確認されていた。一時はデルタ株への効き目が心配されたが、英国の調査ではデルタ株でも感染を79%減らし、発症は88%減らすことが分かった。
 矢野医師によると、第5波では家庭で1人感染すると、ワクチン未接種の同居者全員にうつっていた。しかし今は、同居者にさえうつりにくい。「接種していれば発症してもせきが出にくい。感染経路のほぼ100%を占める飛沫(ひまつ)を周囲にまき散らさないことも、感染者激減に大きく作用している」
 荘司貴代医師は「感染症の一般的な傾向を踏まえた推測」と前置きした上で、デルタ株は発症までの潜伏期間が3~5日と、従来株よりも短くなったことを一因に挙げた。「濃厚接触者を絞り込みやすい。自宅で隔離生活を送ってもらうことで、ウイルスは次の宿主にうつれず、生き延びられなくなる」
 しかし英国をはじめ、ワクチン接種率が高くても、再び感染が拡大している国がある。日本はなぜ拡大しないのか。倉井医師は、国の政策の違いが背景にあると感じている。「2回の接種後にマスク不要という方針を出した国では、感染者が減りにくい傾向がある」と指摘した。
 国内の研究者からは、国内のデルタ株が死滅したのでは-との見方も出ているが、これについては3人とも明言を避けた。荘司医師は「まだ仮説の段階。新型コロナの変異のスピードは速く、激減にはウイルス自身の何らかの要因が関わっているとは思うが、信頼できる研究結果が出るまでには時間がかかる」と話した。

 ■回答者
 矢野 邦夫(やの・くにお)氏 浜松市感染症対策調整監、浜松医療センター感染症管理特別顧問
 倉井 華子(くらい・はなこ)氏 県立静岡がんセンター感染症内科部長
 荘司 貴代(しょうじ・たかよ)氏 県立こども病院感染対策室長

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