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社説(10月24日)外交・安全保障 平和と安定 道筋議論を

 経済力を背景に軍事力を増強し、覇権国家への道を突き歩む中国。さらに台湾への軍事的圧力も日増しに強めている。そして核・ミサイル開発を着々と進める北朝鮮。日本を取り巻く環境は、かつてないほど揺らいでいる。日本の針路はどこにあるのか。国際社会でどんな役割を果たすべきなのか。防衛分野だけでなく通商分野なども包括して考える必要がある。
 与党の自民党、野党第1党の立憲民主党ともに、日米同盟が外交・安全保障政策の基軸になるという点では一致する。中国への警戒感や経済安保の重要性も共通している。ただ、日本がどのように関わるかという点で各党間で相違も見える。対話による融和なのか、力での対抗か、その組み合わせか。東アジアの平和と安定に向けた道筋を論じ合ってもらいたい。
 違いが鮮明なのは核兵器禁止条約への対応だ。唯一の戦争被爆国として核兵器廃絶は国民の悲願だ。実現に向けて世界を主導する役割を果たすためには何をすべきか。より深めた議論を求めたい。
 自民は公約で「国民の生命・安全・財産に関わる課題に冷静かつ毅然[きぜん]と対応する」とし、防衛力を抜本的に強化すると強調している。対国内総生産(GDP)比でおおむね1%以内に抑えられてきた防衛費を「2%以上も念頭に増額を目指す」と書き込んだ。さらに北朝鮮のミサイル発射などを念頭に、「相手領域内で弾道ミサイル等を阻止する能力の保有」を含めた抑止力を向上させるとした。
 最新鋭の武器を持つ中国に対し、防衛装備の更新は欠かせない。しかし、財政難の中で防衛費を増額して何を備えるのか。説明が必要だ。いわゆる敵基地攻撃能力の保持も主張するが、北朝鮮は移動する列車や潜水艦から発射するなどミサイルの秘匿能力を高めている。先制攻撃は憲法上の制約がある上、そもそもどこにミサイルがあるのか分からないのでは、野党が指摘するように現実的ではない。
 自民と連立を組む公明党は「多国間主義を尊重した平和外交」を強調する。尖閣諸島や南シナ海での中国の行動は国際法違反で「断じて許されない」としながらも、「大局的な観点から安定的な関係構築」を維持すべきという姿勢を示す。敵基地攻撃能力にも否定的な見解だ。その差異はどう解消していくのか。
 立民は「平和主義と専守防衛」に徹すると表明。尖閣諸島や南シナ海に関して「国際社会とともに国際法の順守を毅然として求める」とし、領海警備と海上保安庁の体制強化の法整備を示している。また、多国間の安全保障協力を促進し、国際協調主義に基づく連携を進めるとした。
 一方、立民と候補者調整をして連携を図る共産党は日米安保条約の廃棄を主張し、立民と安保政策を根本から違えている。両党は政権交代が実現した場合でも閣外協力にとどめるとしているが、他党からは国家の基本となる安保政策が異なるままの共闘を批判する声もある。有権者が納得できる説明を求めたい。
 来年3月に予定される核禁条約の締約国会議では、立民だけでなく公明もオブザーバー参加を主張している。ところが自民は否定的だ。岸田文雄首相は党首討論会で「核のない世界を目指す目標の出口に当たる重要な条約」と位置付けながらも、「核兵器保有国を変えないと現実は変わらない。保有国を動かすために汗をかくのが唯一の戦争被爆国としての大事な責任」と述べるにとどまっている。
 日本は核廃絶を訴えながらも米国の核の傘の下にいるという現実がある。しかし、世界の潮流に背を向けていては非保有国の信頼と対外的な発言力を失わないか。首相は爆心地のある衆院広島1区選出だ。核廃絶に向けた地元の思いは一層強いだろう。被爆国としての役割と責任について改めて問い直してほしい。

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