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社説(6月2日)首相長男を更迭 「公私混同」猛省求める

 岸田文雄首相は、長男で政務担当秘書官を務める翔太郎氏を1日付で更迭した。
 翔太郎氏は昨年末に首相公邸で親族と忘年会を開き、公的スペースとなっている赤じゅうたんが敷かれた階段や演説台で、記念撮影をしたことが週刊文春で報じられた。軽率で緊張感を欠く上に、公私の区別を付けられない振る舞いだ。野党だけでなく与党内からも批判が高まっていた。
 更迭は当然だ。こうした公私混同は厳しく問いたい。更迭に至るまでの首相の判断も遅く、歯切れも悪かった。今年2月、性的少数者への差別発言をした経済産業省出身の事務担当秘書官を即座に更迭した際との差が大きい。親としての甘さが出たとすれば、トップリーダーとしての資質が疑われよう。
 問題発覚後も首相は厳重注意にとどめ、野党の更迭要求を拒んできた。ところが、批判の高まりに加え、報道機関各社の世論調査の一部で支持率を下げる要因とみなされる事態に及んで、ようやく更迭の判断をしたとみられる。
 忘年会で公邸に招き入れたのは親族とされているが、危機管理上の懸念が拭えない。公邸は本来、厳重なセキュリティー下に置かれている。親族だとしても部外者が簡単に入れる場所ではないはずだ。また、秘書官は特別職の国家公務員で、政務担当はより首相に近い存在とされる。これで首相の安全や重要機密の保護を担うことができるのか。
 そもそも昨年10月、公設秘書だった翔太郎氏を秘書官に充てた時から公私混同を疑問視する向きはあった。後を継がせたい翔太郎氏に経験を積ませるのが狙いとみられていた。野党の指摘に対して首相は「適材適所の観点から総合的に判断」と突っぱねたが、適材適所の果てが更迭では国民に説明がつかない。
 翔太郎氏は、今年1月にも首相の欧米歴訪同行中に、公用車を使って観光地を回ったり、土産を購入したりしたとして週刊誌に報道された。いずれも公務と説明されたが、すんなり納得はできない。
 親子そろって公私の区別が甘い印象を受けるのは、やはり世襲政治家という色眼鏡で眺めているせいなのか。首相も政治家3代目。政治家一家で育った特権的な意識が、慢心やおごりを招いていると見ることもできよう。地盤、看板(肩書き)、鞄[かばん](資金)の「三バン」を引き継いだ世襲政治家は、最初から選挙戦を有利に戦えるとされ、当選回数も重ねやすい。
 しかし、国会議員を選ぶのはあくまでも有権者。そうした意味で一概に世襲政治家の弊害を指摘することはできない。だからこそ、政治家やその後継者には、自らを厳しく律する姿勢を強く求めたい。

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