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社説(4月21日)地域農業基盤計画 農地バンク 戦略活用を

 耕作者と農地の両面から地域農業の設計図を描いた各地の「ひと・農地プラン」を、絵に描いた餅でない「地域計画」として市町村が策定するよう改正された農業基盤強化法が施行された。この準備で静岡県が行った調査で、県内の農地約6万ヘクタールのうち約9600ヘクタールは後継者が不在か未定であることが分かった。
 県は、県内外の農業法人、企業など「担い手」「ビジネス経営体」と呼ばれる農業者の参入を促して耕作放棄地化を防ごうとしている。そのためには集積・集約を進め、使われやすい農地を用意しなければならない。農地は所有するものではなく利用するものだ。後継者がいない農家と規模拡大に意欲的な経営体を仲介する農地中間管理機構(農地バンク)の役割がますます重要になる。
 所有権が複雑に入り組んだ農地では機械も、スマート技術も効率的に使えない。農地の公共性の認識を高め、意欲ある経営体に規模拡大してもらい、成長産業への道を開きたい。
 地域計画で問われるのは中身だ。これだけの農地を活用するにはどれだけの労働力が必要か。現状で足りないなら、耕作を任せられる農業経営体の誘致を急ぐ必要がある。農業者、農業委員会、農協など関係者がよく話し合って計画を策定するよう改正法は定める。有意義な協議にできるか、市町村の力量が問われる。
 県は、市町との連絡会を設置する。本県は茶、ミカンなどの園地が多いのが特徴で、かなりの園が作業効率が悪い傾斜地にある。連絡会でどこまで危機感を共有できるかだ。2020年農林業センサスによると、県内の農家は約5万世帯で5年前に比べて17%減った。基幹的農業従事者の70%が65歳以上だ。
 全国では、農地の約60%は意欲的な「担い手」が耕作している。担い手への農地集積・集約が最も進んでいる北海道は91%。米作りが盛んな県が高く、一方で20%台の都府県もある中、本県は44%。本県農地バンクは20、21年度の貸付面積が目標の千ヘクタールを超え、22年度も同程度という。
 いまの農地政策は、戦後の農地改革で小規模自作農家が多数生まれて始まる。1952年制定の農地法は農地の権利移動や転用を厳しく統制した。61年に農業基本法ができても手つかずで、99年に新基本法(食料・農業・農村基本法)になった後、2009年に改正され、賃貸借が認められるようになり、14年に農地バンクがスタートした。
 農家の高齢化によるリタイアは構造改革を進めるチャンスといえるが、何もしなければ耕作放棄地が増えて地域農業は衰退する。いままた、日本の農地政策は岐路にある。

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