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社説(2月15日)マスク着用緩和 国民に判断を丸投げか

 政府は、新型コロナウイルスの重点対策に位置付けてきたマスク着用のルールを大幅に緩和する指針を公表した。これまで、距離を確保でき、会話をほとんど行わない場合と屋外を除き「原則着用」を推奨してきたが、3月13日からは屋内外を問わず「着用は個人の判断に委ねる」と改めた。
 この3年間、国民の多くがワクチンを接種し、3密の回避や手洗い、うがいなどの対策を心がけてきた。治療薬の開発は進展し、感染症対策に配慮した生活様式は定着している。マスクは対策の骨格だが、唯一無二の予防策ではない。着用緩和の段階に至ったとの政府の判断は理解できる。
 ただし、政府は個人の判断に委ねると決めたのなら、政策決定に至った過程と科学的根拠を分かりやすく示す責任を負う。マスクを着用しないリスクはどの程度なのか、次の感染の波が来たらどう対処するのか。判断材料の提示は、国民に自己決定を求めるための必須条件だ。こうした対応に政府が意を尽くさないなら、マスク着用を他人に強要したり、外すべきと迫ったりする人々が入り乱れることになり社会の分断を生む。国民への判断の丸投げはあってはならない。
 厚生労働省が公表した新方針は「個人の主体的な選択を尊重する」とした上で、着用が効果的な場面として混雑した電車やバスの乗車、医療機関や高齢者施設の訪問などを限定的に例示した。原則着用を掲げてきた政府の姿勢からは大転換だが、新方針は着用、非着用の原則を明示していない。
 マスク着用を緩和するなら、飲食店などに推奨した透明パネルや消毒薬の常備も再検討したい。これらは、せきや会話などに由来する飛沫[ひまつ]感染と、ウイルスの付着物を触ったことによる接触感染の対策として公的な認証や支援の条件になってきた。一方、専門家の中には空気中を漂うウイルスを含む微細粒子を吸い込むことで感染する空気感染(エアロゾル感染)の対策が重要との見解もある。各施設が営業状況に応じた対策を柔軟に判断できるよう、指針を改める必要があろう。
 学校では一律に着用を求めない。対応は4月1日の新学期以降だが、卒業式では児童生徒がマスクなしで出席できるようにした。学校生活は「黙食」に象徴されるように制約続きで、「せめて卒業式ではマスクを外したい」との声が出るのはうなずける。
 マスクの着用判断は国民の関心が高い。政府はウィズコロナの生活様式に向けた重大な転換点と認識し、慎重に対応に当たるべきだ。

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