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社説(11月15日)安全保障指針改定 実効力重視し戦略築け

 外交・安全保障政策の長期指針「国家安全保障戦略」など3文書の年内の改定を見据え、政府や有識者、与党間での議論が活発化している。岸田文雄首相が掲げる防衛力の抜本強化に向け、敵基地攻撃能力(反撃能力)や防衛費増、財源を巡る協議が焦点になる。
 北朝鮮は今年、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を含む弾道ミサイルの発射を繰り返し、核・ミサイル開発の技術や精度は着々と向上しているとされる。中国は習近平総書記(国家主席)が異例の3期目の体制を固め、軍備増強と覇権拡大を続ける。ロシアとの緊張も高まり、サイバー攻撃などの新たな脅威も生まれている。日本を取り巻く安保環境は厳しく、防衛力強化は喫緊の課題と言える。
 日米同盟の下で基本としてきた「専守防衛」の維持に留意しつつ、実効力のある抑止の戦略を築くべきだ。隣国の挑発的な行為に浮き足立つことなく、冷静に軍事力を分析し、対応することが肝要だ。
 一方、日本の防衛装備の強化がかえって地域の緊張を高めることがあってはならない。不必要な衝突を回避するための外交努力を欠かしてはならないことも当然だ。
 専守防衛との整合性が問われる論点の一つとして、政府が中国の軍拡をにらんで取得を検討する米国製の巡航ミサイル「トマホーク」が挙げられる。政府は反撃能力への転用を視野に、打撃力向上を目指すが、日米の役割分担が変化する可能性もはらむ。
 米側は機密保持などの観点から日本への売り渡しに難色を示してきたとされ、米側の最終判断は見通せない。ただ、敵のミサイル施設やレーダー施設などを標的にするトマホークを取得できるとなれば、壊滅的な打撃を与える「攻撃的兵器」の保有を認めないとしてきた政府見解から逸脱するとの指摘も出るだろう。
 防衛費を巡っては、自民党が国内総生産(GDP)比で現在の約1%から今後5年間で2%以上に倍増するべきだと主張する。政府内では赤字国債の発行で当面つないだ上で、法人税やたばこ税を念頭に将来的な増税で財源を確保する案が浮上している。増税に踏み切る前に、防衛力の強化に必要な予算規模の決定や、優先度の低い支出を削る努力が欠かせない。
 反撃能力につながる高額な装備の充実に目が行きがちだが、自衛隊の弾薬備蓄や施設の老朽化など、戦闘継続(継戦)能力が不足していることも大きな課題だ。必要性を精査した上で、実効性のある防衛費の積み上げを求めたい。

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