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社説(12月21日)AIミカン選果機 省力化の手本を示して

 浜松市北区三ケ日町のJAみっかびが全国で初めて導入した人工知能(AI)搭載のミカン選果機が、今シーズンから稼働している。
 生産者の減少や高齢化を踏まえた省力化の取り組みで、国や静岡県、浜松市の補助を受け、約80億円をかけてAI選果機を備えた選果場を建設した。JAみっかびは30億円以上を負担した。高品質で全国的知名度を誇る「三ケ日みかん」のブランド力をさらに向上させようという本気度が伝わってくる。
 日本の農業はミカン生産者に限らず担い手不足が深刻で、AIやロボットなど先端技術を活用した「スマート農業」の普及が課題となっている。AI選果機導入の成果を積極的に発信し、省力化の手本を示してほしい。
 20年前に導入した従来の選果機でもセンサーで糖度や酸度を計測し、色や傷の大きさ、形状を識別できたが、皮の浮きや傷の原因などは人間の目視に頼るしかなかった。新選果機は、さまざまな方向から撮影された膨大なミカンの画像を3年ほどかけてAIに学習させ、目視と同等以上の品質検査と高度な選果を可能にした。
 JAみっかびによると、各農家が選果場に運んでくる前に、レギュラー、二等品、加工用などと選別する家庭選果に手間がかかったが、AI選果機の導入で家庭選果の労力が4割ほど低減される。さらに新選果機の導入で、生産者が選果場に出向く手伝い作業も廃止された。新たに生まれた時間を収穫量アップや品質向上につなげたい。
 生産者にはAIが把握、蓄積した果樹に関するデータが伝えられる。傷から原因となる病害虫が特定できるため、消毒などによる被害防止に役立てることができる。
 持続可能な農業にするためにAIをどのように活用するのか。同業者はJAみっかびの取り組みとその成果に注目しているはずだ。先進地として自動化が難しいといわれる収穫作業の省力化も試みてほしい。
 JAみっかびは、「三ケ日みかん」ブランドを守るため、1995年に周辺14JAが合併したJAとぴあ浜松への参加を見送り、独自の道を歩んできた。全国の温州ミカンの生産量がピーク時の40年前の5分の1に減少している中、三ケ日みかんの生産量は3万トン前後を維持している。
 市場での高い評価を保つため、これまでも選果は厳格に実施してきた。AI選果機の導入はさらなる品質向上につながる。農業の生き残りには、こうした特産品への強いこだわりと誇りも欠かせない。

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