テーマ : 高校野球 静岡

大自在(6月26日)「杉下茂さん」

 始球式のボールが、上空のヘリコプターから投下される。高校野球、夏の甲子園大会の開幕試合。太平洋戦争の敗戦後、連合国軍総司令部(GHQ)による航空禁止期間には、米軍機から投下されたこともある。
 新潟市の野球場に、低空飛行の米軍機が爆音をとどろかせた。高校野球ではなくプロ野球の始球式。「後にも先にも、野球をやっていて怖かったのはこの時だけ」。先日、97歳で亡くなったプロ野球元中日ドラゴンズ投手、杉下茂さんの回想である。プロ2年目、1950年のこと。
 中国に出征し、捕虜収容所で過ごした経験がある。戦闘機に恐怖心を抱き、動揺したことは想像に難くない。西日本パイレーツ戦に先発したが、初回に打者6人から一人もアウトを取れず5失点降板。27勝したこの年、記憶に残るのは苦い敗戦だ。「球跡巡り 歴史を刻んだ球場跡地を歩く」(山本勉著、理工図書)に詳しい。
 「フォークボールの神様」と呼ばれ、プロ通算215勝を挙げた。だが、一塁手だった旧制の帝京商(現帝京大高)時代は、甲子園には縁がなかった。
 1年だった39年は東京大会で優勝したが、チームは全国大会の出場を辞退。杉下さんが直前に高等小学校の大会に出場したため、中学区分での出場資格を問題視されたからだ。41年に再び東京大会を制したものの、戦局悪化で甲子園大会は中止となった。
 静岡県大会の組み合わせ抽選が、きのう行われた。甲子園を目指す球児の熱い戦いに一喜一憂する夏が来る。当たり前のように高校野球がある。幸せをかみしめる。

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