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検証 静岡県知事選

 川勝県政3期12年の継続か刷新かが最大の争点になった静岡県知事選は20日投開票が行われ、無所属現職の川勝平太さん(72)が95万7239票を獲得し、無所属新人で前参院議員の岩井茂樹さん(53)を大差で破りました。有権者が重視したポイントを振り返り、今回の選挙を総括します。
〈静岡新聞社編集局TEAM NEXT・石岡美来〉

川勝知事 一夜明け決意新た「新しい静岡時代を」

 川勝平太知事(72)は4選を果たした知事選から一夜明けた21日午前、静岡市葵区の事務所で報道各社の取材に応じ、「新しい静岡時代を作る決意を固めた。SDGs(持続可能な開発目標)の日本のモデルになる」と4期目への意気込みを改めて語った。選挙中に訴えた浜名湖の都市構想「レイクハマナ未来都市」を具体化させ、浜松市と連携し、庄内半島(西区)で環境を重視した工業団地づくりを進める考えを明らかにした。

一夜明け、4選を伝える静岡新聞朝刊を手に笑顔を見せる川勝平太知事=21日午前8時半、静岡市葵区
一夜明け、4選を伝える静岡新聞朝刊を手に笑顔を見せる川勝平太知事=21日午前8時半、静岡市葵区
 リサイクルを意識したものづくりの重要性を指摘した上で、産業廃棄物処理を血液循環の静脈に例えて「工業団地には動脈産業と静脈産業がなければならない。これからの工業団地は産廃がリサイクルされることだ」と述べた。
 リニア中央新幹線工事に伴う大井川の流量減少問題については、事業者のJR東海が意思決定者だとし「意思決定者が環境を十分に考えていないことが明白になった。正しい意思決定ができるような環境作りにまい進したい」と強調した。
 新型コロナウイルス下で困窮した県内経済の再生には「個人消費が生産を引っ張っていく」とし、個人消費を喚起する形で推進する考えを示した。

 ■一問一答■
 ―当選から一夜明けた心境は。
 「政策に掲げた健康づくり、富づくり、人づくりの3本を軸に、持続可能な開発目標(SDGs)を達成したい。富づくりでは、個人消費で経済をけん引するのが短期的な経済政策。自分が生きるための個人消費が人助けにつながる『フジノミクス』で幸せをつくる。個人消費の基盤となる家庭の暮らしを充実させるため、ガーデンシティーのある静岡県をつくる。環境面では産業廃棄物をきれいにして再び循環させる静脈産業が、動脈産業と一体化した工業団地が必要。ものづくりのメッカの西部で、レイクハマナ未来都市づくりに取り組む。竹の節目が次の節目に向かい伸びるように、既に節目を越えて日本や世界のモデルを目指す思いでいる」
 ―投票率が50%を超え、自身も得票を伸ばした。受け止めは。
 「全ての会議に成立要件があるように、選挙は半分以上が参画しないと成立しないというのが私の持論。無効票を含めて半数を超えたのはありがたい」
 ―改めてリニア問題にどう取り組むか。
 「リニアは全国新幹線鉄道整備法に基づき進められている。意思決定者は事業者のJR東海。JR東海が環境への影響を十分に考えていないことがこれまでの経過で明白になった。水量や水質、土捨て場などの問題を、事業者が考えざるを得ないような環境づくりにまい進したい」
 ―改めてリニア問題にどう取り組むか。
〈2021.6.21 あなたの静岡新聞〉⇒元記事

期日前投票所出口調査 川勝氏のリニア対応に支持

 静岡新聞社は20日の知事選に合わせ、4~19日に県内各地の期日前投票所で出口調査を行った。投票動向を聞いて結果を分析したところ、リニア中央新幹線の大井川水問題への対応を“1票の選択”の判断基準とした有権者が多く、現職川勝平太氏(72)がこの層の支持を着実に集めて4選につなげた傾向がみられた。前参院議員の新人岩井茂樹氏(53)は、推薦を受けた自民党支持層を固め切れなかったことが響いた。

どんな政策を重視して投票したか
どんな政策を重視して投票したか

 ■重視する政策 リニア水問題4割、全県的に関心
 どんな政策を重視して投票したかを聞いたところ、「リニア水問題」を挙げた人が最多の41・9%に上った。続いて「新型コロナウイルス対策」22・8%、「経済対策・産業振興」10・6%の順。「防災対策」や「浜岡原発対応」はそれぞれ2・4%、1・8%と低く、今回知事選では大きな論戦テーマにならなかったと言える。
 地域(衆院小選挙区)別では、大井川流域の志太・榛原(2区)で51・0%と半数超、中東遠(3区)で45・9%がリニア水問題と回答した。このほかの地域でも軒並みリニア水問題が3~4割台でトップの割合を占め、流域にとどまらず全県的な関心を集めたことがうかがえた。
 リニア水問題を重視した層の投票動向をみると、80・4%が川勝氏に流れた。川勝氏はリニア水問題を最大の争点に掲げ、告示後の各地での街頭演説でもJR東海や国と対峙(たいじ)する姿勢を繰り返し強調。こうした戦略が奏功し、支持を集めた。
 新型コロナウイルス対策を重視した層の投票先は川勝氏49・5%、岩井氏49・0%ときっ抗した。一方、経済対策・産業振興を重視した層は66・7%が岩井氏に投じた。岩井氏は「インフラ整備」や「子育て・教育」、「医療・福祉」などを重視した層の支持も川勝氏を上回ったが、リニア水問題で付いた差を埋められなかった。
 
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        誰に投票したか

 ■投票動向 無党派7割、川勝氏へ
 川勝氏は支援を受ける立憲民主党支持層の89・1%、国民民主党支持層の83・5%から票を集めた。自民党支持層の36・2%に食い込み、支持政党のない無党派層の70・0%から支持を受け、着実に票を積み上げた。
 岩井氏は自主投票とした公明党支持層の60・6%から票を得たが、自民党支持層は63・3%にとどまった。無党派層からの支持も28・1%と伸び悩んだ。
 地域別にみると、川勝氏は県内全域でまんべんなく支持を集め、安定した戦いぶりを見せた。リニア中央新幹線工事に伴う水問題が浮上している大井川流域で大きくリードし、志太・榛原は68・8%、中東遠は65・6%の票を集めた。川勝氏は前回の知事選で苦戦した静岡市葵、駿河区でも岩井氏を20ポイント近く上回った。このほか、大票田の浜松市中区で60・7%、富士市で66・2%、三島市で64・5%、沼津市で57・0%の票を獲得した。
 年齢別では川勝氏が全ての年代で岩井氏を上回った。10代、30代、50代、70歳以上は6割を超えた。男女別は男性の57・5%、女性の63・0%が川勝氏に票を投じた。

 ■知事に求められる資質 実行力最多32%
 知事に求められる資質は、「実行力」と答えた人が32・6%と圧倒的に多かった。以下は「人柄」13・4%、「決断力」12・9%、「リーダーシップ」11・7%、「バランス感覚」10・4%、「国政や市町とのパイプ役」6・1%、「政策立案力」4・8%、「堅実さ」4・1%だった。
 実行力を重視するとした層の67・2%が、川勝氏に投票した。川勝氏は決断力や堅実さを重視する層、岩井氏は国政・市町とのパイプ役やバランス感覚を重視する層からの支持がそれぞれ厚かった。
 
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         次期衆院選の比例代表投票先政党

 ■衆院選比例投票先 自民31%、立民11%
 秋までに予定される衆院選の比例代表投票先は自民党が31・4%、立憲民主党が11・6%だった。「特になし」は42・1%を占めた。公明党が3・5%、共産党が2・6%で続き、日本維新の会は2・1%、国民民主党は1・9%だった。
 普段の支持政党も自民が33・2%で最多。立民9・3%、公明3・3%、共産2・1%、国民1・6%、維新1・3%となり、衆院選の比例投票先とほぼ同じ傾向となった。特になしは46・2%に上った。

 ■五輪パラ 開催賛否混在 45% 観客制限求める
 東京五輪・パラリンピックの開催是非を尋ねたところ、「無観客で開催」が24.8%、「観客を制限して開催」が21.0%で、計45.8%が何らかの制限をした上での開催が望ましいと回答した。「開催すべき」は10.4%、「中止すべき」は39.1%。開催まで1カ月余りとなった今も、さまざまな見方が混在している。
 地域別で大きなばらつきはなかった。自転車競技の開催地となっている東部・伊豆地域は、無観客22.9%、観客を制限23.4%、開催すべき12.2%、中止すべき38.2%だった。

 【期日前出口調査の方法】県内各市区町の投票所で、投票を終えた有権者にタブレット端末で投票した候補者などを入力してもらった。4~19日の16日間実施し、4804人から回答を得た。グラフや原稿中の数字は小数点以下の処理により合計が100にならない場合がある。
 地域別で大きなばらつきはなかった。自転車競技の開催地となっている東部・伊豆地域は、無観客22.9%、観客を制限23.4%、開催すべき12.2%、中止すべき38.2%だった。
〈2021.6.21 あなたの静岡新聞〉⇒元記事

川勝氏「争点化」奏功 リニア大井川水問題 岩井氏、奇策で応戦も届かず

 リニア中央新幹線工事に伴う大井川の流量減少問題を巡っては、川勝平太氏がリニア事業を所管する国土交通副大臣だった岩井茂樹氏を立候補表明直後に「国土交通省の顔」と位置付け、水問題を選挙の争点だと強調する戦略が奏功した。JR東海や国交省と厳しく対峙(たいじ)する姿勢が評価され、大井川流域をはじめ県内で幅広く得票した。

(左から)川勝平太氏/岩井茂樹氏
(左から)川勝平太氏/岩井茂樹氏
 これに対し岩井氏は、リニアを推進する自民党本部の推薦を得たにもかかわらず、告示前の討論会で「ルート変更や工事中止も選択肢」と発言する奇策に打って出た。「地域住民の理解、協力がない限り、着工しない」とも繰り返し、JR東海との対話を重視した「円卓会議」の開催案も披露したが、支持は集まらなかった。
 終盤戦では両氏とも「命の水を守る」と強調する一方で、双方が相手候補の批判を展開した。問題解決の方向性を語ることは少なく、具体的な議論は深まらなかった。
 両氏のスタンスの違いが見えにくい中で、「実績」を判断材料に投票した流域住民もいた。自民支持層のある利水関係者は「川勝氏はこれまでよくやってくれている。自民にも世話になっているが、今回は川勝氏を支持する」と明かした。
 川勝氏は大井川流域以外でも、富士川の汚泥や伊豆半島のメガソーラーなどの問題を絡めて各地の「水問題」に言及。リニア問題と関連付けて、環境保全と経済活動を両立させる訴えを全県に広げた。
〈2021.6.21 あなたの静岡新聞〉⇒元記事

川勝知事4選 自民は学習したのか 前山亮吉氏【識者解説】

 「12年前の敗北から自民党は学習したのか」が、今回知事選の最大の焦点だったと考える。結論から言うと学習成果は極めて乏しかった。以下、重要な2点を指摘する。

前山亮吉氏 静岡県立大教授=政治学=
前山亮吉氏 静岡県立大教授=政治学=
 ①内向きの選挙に終始
 告示日3日の静岡市常磐公園における岩井氏の出陣式を傍聴したが、旧態依然たる党組織・関係団体を動員した集会であった。このことが象徴するように、組織票獲得中心の運動は12年前同様に限界を露呈した。
 自民がこの戦術を基本としたことは、2012年の政権復帰以後の衆参国政選挙での「成功体験」に依存したといえる。しかし、低投票率・組織票固め・公明党との選挙協力という勝利の方程式のうち、公明との選挙協力はそもそも欠けていた。投票率も前回より上昇し、50%を上回った。
 ②不徹底な新規開拓
 組織票だけでは勝てない。従って、新しい自民支持層を開拓することこそ今回の選挙では重要であった。特に最近は若年層の自民支持が高い傾向にあり、絶好の開拓対象だった。岩井氏もそれを意識し、「政治は子どもたちのため!」というフレーズに代表される訴えかけを行った。
 しかし、それは先に見た組織票中心の基本戦術と十分にかみ合うことなく、成果は引き出せなかった。総じて来る総選挙にも不安が残る結果である。
 敗北から十分学習しなかった自民の戦術にも助けられ、川勝知事は前回同様の得票率差で、危なげなく4選を果たした。川勝知事は過去3回票を入れた政党を越えるゆるやかな「川勝ファン」を固めれば、勝てる図式を構築した。リニア問題における環境保全や「SDGsモデル県」の主張は、今回も「川勝ファン」を動員することに成功した。
 ただ、静岡県知事の4期目には十分な成果が出せない歴史が重なっている(斎藤寿夫・石川嘉延両知事)。しかも、川勝知事は本県初の70歳代の4選知事である。12年前の「改革者イメージ」は色あせ、今回の勝利も現状維持が選択されたことは否めない。「静岡時代」を築き上げるエネルギーは湧いてくるのだろうか。<br />
〈2021.6.21 あなたの静岡新聞〉⇒元記事