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「解決案」の田代ダム 少雨時は枯れる可能性【大井川とリニア 第5章 渇水から考える②】

 「田代ダムの水を大井川に回せば、解決できるのでは」

JR東海の想定に基づくトンネル掘削完了20年後の地下水位低下予測図
JR東海の想定に基づくトンネル掘削完了20年後の地下水位低下予測図

 リニア中央新幹線のトンネル工事による大井川の流量減少対策として、インターネット上で流布されている「解決案」だ。東京電力田代ダムは大井川の最上流部にあり、発電に使う水を山梨県側の富士川水系に流している。雨が少ない時期、この水の流出を止めれば工事で減る大井川の水量を補えるとも受け取れる主張だが、解決策になるのか。
 田代ダムの取水量と、JR東海が環境影響評価(アセスメント)で予測した上流部の流量減少分は奇妙にも一致する部分がある。
 【特設サイト】リニアと大井川/そもそも「水問題」って?
 静岡新聞社が過去10年分(2010~19年)の田代ダムの取水量を国土交通省に情報開示請求したところ、雨が少ない冬場の取水量は毎秒2トン前後。この「毎秒2トン」はJRが環境影響評価(アセスメント)に記載した最大減少量に等しかった。ところが、地質や流量などの調査不足で「毎秒2トン」の予測には不確実性があり、もっと多くなる可能性が指摘されている。ある利水関係者は「(JRは)調査をろくにしないで、都合が良すぎないか。補塡(ほてん)する水はあるのか」と憤りを隠さない。
 小規模な田代ダムにためられる水の量は少なく、井川ダムの約600分の1にすぎない。一定の水量を大井川の下流側に放流し続けることが決められているため、上流からの水が途絶えれば田代ダムの水は4日ほどで干上がり、発電すらできなくなる。
 JRが国土交通省の専門家会議に提出した地下水位低下の予測図によると、トンネルが地下を通る田代ダム上流部の大井川や支流の西俣川で、着工後に地下水位が徐々に下がり、掘削完了の20年後には100~200メートル低下する。降水量が少なく、表流水があまりない時期に水枯れが懸念されるゆえんだ。
 予測図以外にも、少雨時に田代ダム上流部で「水枯れ」することを示唆する資料は複数ある。
 JRの委託を受けた地質調査会社がトンネル掘削による高圧大量湧水の発生を懸念していて、地下水位を下げるために「水抜き」が行われる可能性がある。県有識者会議の地質専門家はボーリング試料から幅10メートルを超える大規模な破砕帯(岩石が砕かれ、水を通しやすくなっている層)が読み取れると指摘する。利水者が水を必要とする渇水時、大井川水系に水を供給できなければ、田代ダムは「解決案」にならない。

 <メモ>トンネル掘削による地下水位の低下予測 JR東海が昨年7月の国土交通省専門家会議で初めて示した。環境影響評価に使った予測方法で、着工1年後から掘削完了20年後までの各段階の地下水位を試算した。最大で300メートル以上低下し、大井川の河川区域でも地下水位が下がるとした。トンネル周囲を防水シートで覆うため、工事完了後のトンネル湧水量は工事中よりも少なくなるが、地下水位がどの程度回復するのかは示されていない。

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